『千と千尋の神隠し』感想:よくわからないけど気持ちのよいアニメ

スタジオジブリ制作、宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』は、2001年公開のアニメ映画。今が2018年だから17年前ですか…。随分昔になってしまいました。

先日美術館でジブリの展示を見て宮崎作品が見たくなり十数年ぶりに視聴。なんというか見やすいです。最期まで気持ちよく見られる映画でした。

昔はあんまり好きじゃなかったんですけど、年月が経つと見方も変わるなぁと。見終わった後清々しい気分になります。時間も長すぎずいい感じ。

ストーリー構成がカッチリしていないのですが、それが逆に良くリラックスして見られます。そして映像が素晴らしい。独特の世界観に引き込まれます。

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あらすじ

有名な作品なのでご存知の方も多いとは思いますが、軽くあらすじを。

※この後の感想を含め少々ネタバレがありますのでご了承ください。

『千と千尋の神隠し』は、異世界に迷い込んだ主人公の少女千尋が、魔法で豚にされた両親を助けるべく八百万の神が訪れる温泉旅館的な施設「油屋」で働く話です。

「油屋」の支配人がバカでかい頭をしている魔女の湯婆婆。その息子と思われる巨体の赤ちゃん「坊」や、千尋を助けてくれる謎の美少年ハク、影の様な姿をした男カオナシが登場。果たして千尋は無事人間界へ帰ることができるのでしょうか。

ざっとこんな感じ。分かりにくいかな…。本編を見れば一発です。

感想に入ります。

掴みどころのないストーリー

ストーリーがふわっとしていて掴みどころがない感じです。起承転結がはっきりしておらず、行き当たりばったりで話が進んでいく印象。

良く練られ筋の通ったシナリオを期待して見ると不満が残るでしょう。逆にストーリー性のない日常系アニメばかり見てる人(筆者とか)はすんなり受け入れられると思います。

一貫性がなく個々のエピソードをつなぎ合わせたようなお話です。

不条理な終盤

終盤に盛り上がりがなく、よくわからないまま問題が解決して結末を迎えます。

千尋が湯屋を出て銭婆(湯婆婆の姉)の家を訪れる場面がありますが、ストーリーに関わる重大な出来事は起こりません。

ただ優しいおばあちゃんの所へ遊びに行ったようにしか見えなかったです。終盤にこれを持ってきた意図がよく分かりません。

銭婆を訪ねた意味

「ハクがハンコを盗んだことを謝りに行く」という体になっていますが、銭婆は全然怒っておらずあっさり許してもらえます。

千尋のハクを助けたいという強い思いが描かれていますが、ハクは勝手に元気になって飛んできます。千尋が出発する前、ハンコを吐き出した段階で呪いは解けていたのです。

謝りに行って呪いを解いてもらう必要はなかったという肩透かし感。カオナシが銭婆の所で暮らすようになった(=居場所が見つかった)ことくらいしかストーリー上の意味はなさそうです。

意味はなくても楽しい

一方で海の中を走る電車、乗り込む影のような人々など映像的な楽しさは十分にありました。

すっかり大人しくなったカオナシがケーキを食べている姿は微笑ましいですし、ネズミになった坊とハエドリが糸車をくるくる回す場面は可愛らしくて好きです。

ストーリーじゃなくて映像、雰囲気を楽しむアニメなのかなと思いました。

急に思い出す

千尋は銭婆と別れ、龍の姿になったハクに乗って油屋へ戻ります。その途中、千尋が「唐突に」 湯婆婆に奪われたハクの本名を思い出します。

ハクは千尋が小さい頃に落ちた川の神様だったようですが、これと言ったきっかけもなくただ思い出すだけ。

理由やきっかけが絶対に必要だとは言いませんが、「ずいぶん急だな」という印象は拭えません。確かに銭婆に「一度あったことは忘れない」みたいなことは言われていましたけども。

豚当てクイズ

さらによく分からないのが次の場面。

千尋が油屋に戻ると豚が並んでいて、その中から豚にされた両親を当ててみろと言われます。当たったら人間に戻してもらえ人間界へ帰れると。

ですが湯婆婆はなかなか卑怯なヤツ。両親豚を連れてきていないのです。

しかし千尋は、何 故 か この中に両親がいないことが分かります。理由は不明で一切説明されません。さも当たり前のように、悩みもせず、両親がここにはいないと言い当てます。

うーん、これは流石にモヤモヤします。このシーンにはメッセージが込められていて、視聴者に考えさせるためあえて説明していないという解釈があるようですが……。

急に優しくなる

物語全体を通して言えることですが、キャラクターの心理面にも理解困難な部分があります。

初めは千尋に対して厳しい態度、冷たい態度を取っていたキャラクターが少し後のシーンではとても友好的になっているという謎。

千尋の活躍を見て見直した描写が入っていれば良いのですけど、さしたる理由もなく好意的になっている場合も。

監督のハヤオ氏から映画を見た少女への「思っているほど世界は怖くないんだよ」というメッセージなのでしょうか?(監督はこの映画を千尋と同じくらいの年齢の少女に向けて作ったらしい。)

意味不明さが逆に魅力

ストーリーには非論理的で理解困難な部分があるのですが、それが逆に魅力になっている不思議な作品。掴みどころのないストーリーと不思議な世界観が上手くマッチしてます。

言うまでもないですが、視覚的イメージが圧倒的。湯屋の建物などの風景や個性的な姿をした神々を見るだけでも十分に楽しめます。

夢っぽい

ごちゃごちゃ書きましたが、一言で言うと夢っぽい映画です。夜に見る「夢」の中の世界に似ています。

不条理なストーリーや理由の分からない行動なども夢っぽさにつながっていると思います。

雨が降ると辺りが一面の海になり、水の中を列車が走ります。奇抜な外見をした神々、日本的なものと異国情緒がごちゃまぜになった風景など、絵的にも混沌としていて夢っぽいです。

頭で考えると意味不明ですが感覚的にはすっきり受け入れられるのがこの映画。それは我々が体験している夢の中の世界に似ているからかもしれません。

なお、夢オチと言うつもりはないです。夢っぽいだけで千尋の見た夢ではない。人間界に戻っても銭婆に貰った髪留めが残っていましたし。

人間界への帰還

両親を人間に戻して元の世界へ帰るシーンの清々しい感じが良いですね。悪夢から覚めた時の「夢でよかったー」というのに似た感覚が味わえます。

でもいざ戻ってみると車がホコリだらけ。浦島太郎のように体感以上の時間が進んでいるようです。この後どうなったんだろうなと気になる終わり方です。

数週間、もしかしたら何ヶ月も経っているのかも。数日でホコリだらけになることは無いでしょうし。

人間界の者から見れば千尋一家は長い間行方不明ということになりますね。タイトルの「神隠し」ってそういうことなのかな?

余談

ここまでの感想で書ききれなかったことを少々。

DVD版は色がおかしい

全編を通して絵が凄い赤みがかってます。違和感がいっぱい。

PCモニターやスマホで目の負担を減らすため色温度を調節することがありますが、そんな処理をされた感じ。好意的に捉えるとブルーライトがカットされていて目に優しい?

仕様と言い張ったものの海外版では赤くなかったらしく、問題になり裁判も起こされたみたいです。ちなみに何年も経ってから出たブルーレイ版では修正されている模様。

出す前にチェックしなかったんですかねこれ…。大手の作品なのに不思議です。極端に赤いので見れば分かりそうなものですが。

ジブリのブルーレイの値段

ブルーレイ化されたジブリ作品は、深夜アニメに比べれば高くないものの一般の映画より少々高い気がします。

ブルーレイが主な収益源の深夜アニメと違い、劇場上映で元は取れてそうなので多少安くしても良い気がするんですけどね。

邦画アニメだから洋画の実写作品より高いということでもなさそう。『君の名は。』や『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』はそこまで高くないです。

また『千と千尋の神隠し』の興行収入は国内歴代一位(2018年3月現在)。莫大な利益が出ていると思われます。

公開から10年以上が経過しているにも関わらず強気な価格設定なのは、最近の作品が不振でスタジオジブリに余裕が無いということなのでしょうか?

まあ、高くしても買う人がいるから高くするんでしょうけど。通販サイトで割引率が低いことからも分かります。

でも『カリオストロの城』と『となりのトトロ』は欲しいなあ。

カオナシ

色々考えさせられて面白いキャラクターです。

「ア…ア…」としか喋れず存在感の無いカオナシは人畜無害に見えますが、誰かを飲み込むとその人の声を使って横暴に振る舞います。

リアルでは気弱でコミュ障な人が、顔の見えないネット上で虚勢を張り罵詈雑言を撒き散らす様子に似ています。

また、彼の油屋での振る舞いは「客は神様。金を払っているから何をしても良い」という悪質クレーマーそのものです。

カオナシは現代日本人の心の闇と言われてますね。

評論の本

『千と千尋の神隠し』関連本の紹介。批評雑誌ユリイカの臨時増刊号です。

当時の本なので新品の入手は難しいですが、色々な分野の専門家による『千と千尋の神隠し』評が読めて面白いです。こんな見方ができるのかと感動しました。本物の評論って凄いなと。