K社がなろう系レビュー動画を片っ端から削除している件について

2020年8月末くらいからYouTube上で、K社(出版、コンテンツ企業)の作品を取り上げたレビュー動画が片っ端から消されているらしい。

削除の名目は著作権侵害で、主になろう系作品のレビュー動画が標的になっているという。

削除対象は作品に批判的なレビューに限らず、好意的、肯定的なレビューまで問答無用で権利者削除されている。また、原作小説だけではなくアニメ版の感想まで削除対象だそうだ。

流石に乱暴なやり方で憤りを覚える。感想を発信することさえ許さないとは狭量にも程がある。そこまで批評されるのが嫌なのだろうか。

引用は合法

もちろん、実際に著作権を侵害しているのならば権利者削除されても仕方ないと思う。だが、消されたレビュー動画の中には、著作物引用の要件を満たしており合法と思われる動画も含まれている。

著作権侵害に当たらない動画まで容赦なく消されているのは甚だ疑問である。

著作権法第32条1項には「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」とある。

さらに、判例をもとに以下の要件を満たせば引用が可能とされている。

(1)他人の著作物を引用する必然性があること。
(2)かぎ括弧をつけるなど,自分の著作物と引用部分とが区別されていること。
(3)自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること(自分の著作物が主体)。
(4)出所の明示がなされていること。(第48条)

引用:著作物が自由に使える場合 | 文化庁

なお、引用の要件は以下のように解釈される場合もある。

  • 既に公表されている著作物であること
  • 自分の著作物と引用部分が区別されていること
  • 自分の著作物と引用する著作物の主従関係が明確であること(自分の著作物が主で引用部分が従)
  • 「公正な慣行」に合致し、「引用の目的上正当な範囲内」であること
  • 出所が明示されていること
  • 引用部分が改変されていないこと

いずれにせよ、上の要件を全て満たしていれば権利者の許可なく著作物を利用しても著作権侵害には当たらない。

これは文章の引用に限らない。漫画の引用に関する判例も存在する(脱ゴーマニズム宣言事件)。引用の要件を満たしていれば漫画の引用をしても構わないのだ。

他人の著作物を少しでも引用すると、著作権侵害だの犯罪者だのと騒ぐ人がいるが、彼らは法律を知らないだけ。著作権法第32条と引用の要件がもっと周知されれば妙なことを言い出す人は減るだろう。

題名だけでも消す

消されたレビュー動画には引用の要件を満たしているものも少なくないようだ。基本的に画像の引用は最小限。もし実際にK社との裁判になったとしても、動画投稿者側が勝つ可能性が高いのでは無いだろうか。

百歩譲って、裁判でレビュー動画で使用されている画像等が引用として認められないとしよう。それでも今回の削除には解せない部分がある。

K社が権利者削除したレビュー動画には、K社が権利を有する画像や文章が一切含まれていないものもあったようなのだ。

もちろん著作物のタイトルは含まれているのだが、一般的にタイトルそのものは著作物に該当しない。

作品の題名を出すだけで消すというのは流石に過剰だ。著作権の拡大解釈・濫用以外の何物でもない。いくら著作権者といえども批評を封殺する権利はない。

だからこそK社は、YouTubeのいい加減なガイドラインに則って削除を仕掛けてきているようにも思う。動画がYouTubeというプラットフォーム上に投稿されている以上、法的には問題がなくともローカルルールで消すことが可能だからだ。

著作権侵害で裁判を起こすには金と労力が必要だし、勝てるかどうかも怪しい。もし負けた場合は大損である。

一方YouTube上であれば運営が絶対的な力を持っている。著作権的には問題ない動画であっても運営の鶴の一声で消してしまうことが可能なのだ。

YouTube運営の問題

今回の件では、権利者の言うことを鵜呑みにして機械的に動画を削除してきたYouTube運営にも問題があると思う。

YouTube運営は、ある動画が著作権侵害しているかどうかについて無関心のように思える。

引用の要件も何も関係なく、権利者の申し立てがあったらとりあえず消しておけば安心。たとえ権利を侵害していなかったとしても、消しておいたほうが安全だから消しますという運営方針に見える。

自社のリスクを減らしておけばOKなのだ。

法的な判断は行わない。その動画が完全合法だったとしても構わない。消せと言われたから消しただけ。そうするのが得だと考えているように思える。

細かい法解釈や議論になるような部分にはノータッチ。いかにもグローバル企業って感じの冷たい合理主義。最小限の手間で最大限の利益を追求。

削除人を増やして判断の正確性、公平性を高めるより、誤りがあっても機械的に消したほうが低コストだと考えているのだろう。

文句があるなら投稿者が異議申し立てを行えというのもそういう考えの表れだと思う。運営は法的な判断を行わないから、著作権を侵害していないというなら投稿者がそれ証明をしろというスタンス。

なお、この意義申し立てをやると相手方(今回の場合はK社)に住所氏名など個人情報が開示される。家に尋ねてきたら怖いね。

余談になるが、詐欺師が権利者になりすまして動画を削除したり、広告料を横取りするという事例がある。こういう場合、異議申し立てを行うと詐欺師に個人情報が漏れることになる。ちょっとシステムとしてどうかと思う。

あと、運営はとりあえず強い方の言い分を聞いておくのが無難だと考えているのかもしれない。

訴訟大国アメリカならまだしも、日本において一個人である動画投稿者が訴えてくる可能性なんて低いし、大企業の機嫌を取っておいたほうが得。広告を出してくれるかもしれないし。

そういうわけで、大企業から著作権侵害の申し立てがあれば内容も見ずに削除しているのだろうなと自分は思っている。

広告の審査について

自分は別にYouTubeのアンチではないのだけど、今年になってから運営に対する不信感が強まった。

某ウイルスが蔓延し始めてからYouTubeに詐欺まがいのサプリの広告や、外見差別を助長するような酷い広告が増えたからだ。

ちゃんと審査していたらアウトだろうという内容のものが多い。性的な表現が入っていて18歳未満の視聴にふさわしくないような広告まで普通に流れている。

広告料のため、こんな低俗で社会の害にしかならないものを垂れ流すYouTube運営は全く信用ならないよ。ちゃんとチェックしてるとは思えない。

コストをケチって広告審査まで全部AI任せにしてるんじゃないのかな。人間は内容を確認せず、高い金額を提示した企業の広告が自動的に採用されるようになっているのではないかと疑ってしまう。

YouTubeは昔と違い超大規模なサービスになったのだから、それ相応の社会的責任があるだろう。詐欺や差別に加担することになってもいいんですかね?

なんかYouTubeのこういう姿勢を見ていると、削除も適当にやってんだろうなと思ってしまう。

もちろんK社も悪い

権利者の主張を鵜呑みにして削除を繰り返すYouTube運営を批判したけど、むやみに削除申し立てを行うK社ももちろん悪い。

肯定的なレビュー動画まで消すというのは一体どういうつもりなのだろう。とりわけ、なろう系ラノベとそこから派生したコミック、アニメに厳しいらしい。

なろう系に社運をかけてるのかしらね?

なろう書籍化は美味しい商売

出版不況という言葉が叫ばれるようになって久しい。以前ほど本が売れない時代になった。

苦境に陥った出版社が目を付けたのは素人がネット上で連載している小説だった。

ネット上には複数の小説投稿サイトが存在する。特に有名なのは「小説家になろう」というサイトだ。そのランキング上位の人気作を書籍化すればカネになると気づいた出版社は、なりふり構わず素人作家をスカウトし彼らの作品を次々と書籍化していった。

素人の書いたWeb小説の書籍化には多くのメリットが存在する。

まず、小説投稿サイトのランキング上位の人気作には熱心なファンが一定数付いているので、需要の予測が簡単である。ある程度の数は売れることが保証されていて低リスクなのだ。

また、一から書かせるのではなく既に公開されている文章をちょっと手直しさせるだけだから編集者にとっても負担が少ない。

従来のように新人賞などで見つけたラノベ作家の卵を頑張って育てても、書いた小説が売れるかどうかは分からない。ある意味博打である。完全新作を売り出そうと思ったら宣伝費も必要だ。

それよりは育てる手間がかからず、既にファンがいて売上が予想しやすいWeb小説を書籍化した方が割が良いと出版社は考えるわけだ。

実際、本が売れない現代でも、なろう発の小説はかなりの部数が売れている。ちょっと信じられない数が出ている(数字が水増しされてなければだけど)。

こんなに美味しい商売は滅多にない。味をしめた出版社はさらに悪知恵を働かせた。人気小説をコミック化、アニメ化したら二重三重に美味い汁が吸えるぞと。最近はソシャゲ化までやるらしい。

メディアミックスと言えば聞こえが良いが、素人の書いた文章を低コストで取ってきて、可能な限りしゃぶりつくそうという貪欲な姿勢には呆れるばかりだ。醜悪ささえ感じる。

コミカライズに関しても、なるべくコストをかけたくないからなのか、素人に毛が生えたような漫画家に描かせる。あまりにも酷い絵面だったためネット上でネタにされ、悪い意味で有名になった作品もある。

アニメ版も一部の大人気作を除いて低予算だ。紙芝居だったり、作画が崩れまくりだったりする。

そのようなケチで手抜きなメディアミックスであっても、しっかり収益が上がるのだから止められない。出版社サイドにしてみれば滅茶苦茶コスパが良い商売なのだ。

これはK社に限らず、多くの出版社が手を出しているビジネスモデルである。その結果、粗悪な商品が市場にあふれるようになった。

だけど低クオリティでも買うやつはいるんだよね。ネット上であれだけ叩かれた「スマホ太郎」こと『異世界はスマートフォンとともに。』も円盤が累計平均1400枚以上売れている。

円盤全般が売れなくなった昨今において、1400枚はそこまで悪くない数字だぞ。1000枚どころか500枚を切っている作品も少なくないわけだから。

原作に熱心な信者がついている作品は非常に美味しい。大好きな原作のアニメ版なら、出来が悪くても買ってくれるのだ。

スマホ太郎の場合、アニメ版が面白くてファンになった奴なんて数えるほどしかいないと思う。

スマホ太郎のアニメは、シナリオが酷いだけじゃなく作画も相当チープだった。あんな低品質作品の円盤を高い金出して買うやつがいるなんて不思議で仕方ないですよ。

なろう系は万人受けしない

立派な装丁で書籍化されたとしても元は素人の書いたWeb小説なので品質はピンキリ。さらには、「小説家になろう」上で人気が出るよう最適化されている。

中には一般層にも広く受け入れられ大ヒットした作品もあるが、多くの作品は内輪受けを狙った内容であり、なろう特有の共通認識と嗜好を持った人たちにしか刺さらない。

性質上万人受けしづらいのだ。

ネットの片隅でひっそり楽しまれている分には問題なかったが、書籍化され、店頭に並び、なろう外の一般層の目に晒された結果、様々な問題点が指摘されるようになる。

苦労もせず手に入れた力(チート)でイキるのがキツい、ご都合主義、世界観が似たりよったり、内容がワンパターン、主人公を称賛するためだけに存在するキャラクターたちはまるで人形、ストーリーに起伏がない、作者の願望むき出しで気持ち悪い等々。

一般の目に触れるようになった以上、なろう的価値観に馴染みのない人達から批判的な意見が出るのは必然だ。

だが出版社サイドは、そういった批判を快く思っていないようだ。せっかくの美味しい商売を邪魔するやつは許さないとムキになってレビューを削除する。

なぜ肯定的なレビューまで消すのか?

批判的なレビュー動画を消すのはまだ分かる。批判が原因で作品の印象が悪くなり、売上に影響が出ると困るのだろう。その行動には、善悪は別として合理性がある。だが、肯定的なレビュー動画まで消すというのは解せない。

ちょっと理由を考えてみる。以下は特に根拠のない推測である。

憶測その1

作品の概要を知られたら買ってもらえなくなると考えているから消している説。

出版社はなろう小説の書籍化を推し進めているが、なろう小説が文芸的に優れていると考えているわけではないのかも。金になるからやっているだけで、なろう小説のことを非常に低レベルで読むに耐えないものだと認識している可能性もある。

なろうに入り浸っている特殊な層や作品の信者には受け入れられても、一般受けしないことを出版社もよく理解している。

だから一般層に対しては表紙で騙して売り逃げすることを考えているんじゃないかと邪推してしまう。

例えばスマホ太郎の書籍版も表紙だけ見ると良さそうじゃん。イラストレーターは『ゼロの使い魔』で有名な人だし、なんか買ってみようかなって気にさせる。

冬原パトラ(著) 兎塚エイジ(イラスト) ホビージャパン HJノベルズ『異世界はスマートフォンとともに 。』第1巻より引用

(なお、スマホ太郎小説版はK社と無関係。)

肯定的なレビューであっても、なんとなく作品の雰囲気は分かってしまうものだ。レビュー主が作品を褒めていても、「これっていわゆるなろうだな」と思われた時点で一般層は購入を敬遠するかもしれない。

中身を秘密にしておいて表紙だけで売るつもりだとすると、レビューが邪魔だと考えても不思議ではない。出版社にとっては一般層が正体に気づかず買ってくれたほうがありがたいからだ。

ただあの、なろう特有の長いタイトルを見られた瞬間なろう系だとバレるような気はするよね…。「チート」やら「異世界」やら「無双」やらがタイトルに入ってることも多いし。まぁ、一般ラノベも最近そんな感じのタイトルが多いから区別つかないで買っちゃう人はいるかも。

ちなみに、従来のラノベより大きいサイズ(四六判)で、1冊1000円以上するなろう小説も少なくない(上のスマホ太郎もそう)。単価を上げるため、わざわざ大きくして売っているのだと考えられる。

信者は高くても買ってくれるだろうし、内容を知らない一般層が表紙に釣られて1巻だけ買った場合には従来サイズ2冊分程度の売上が得られる。出版社にとっては美味しいのだろう。

憶測その2

なろう系に対するレビューは全部批判だと思ってるのかもしれない。なろう系をわざわざ動画で褒めるやつなんていないと思ってるから中身も見ずに消す。

もしこれが真実だったらあまりにも皮肉。持ち上げられているように見えて、実際は金づるとしか思われてないなろう作家の哀しみ。

憶測その3

内容確認自体が手間だから、とりあえず自社コンテンツのタイトルが入ってるだけで消しているという説。

たとえ肯定的なレビューまで消えたとしても、チェックの手間を省いた分人件費等が浮き、トータルでは得になるという経営判断?

憶測その4

削除に合理的な理由は一切なく、権力を誇示したいだけ。大企業特有の謎のプライドで消している説。

愚鈍な下級国民が超巨大企業であるK社のコンテンツを批評するなんて、おこがましいと思ってるのかもしれない。生意気で分不相応だから罰を与えてやるという発想。

大企業の社員だから一介の動画投稿者より偉いと考え、己の力を誇示するため削除しているという可能性も。

動画削除とは関係ないけど、以前K社社員によるクリエーターへのパワハラが暴露されてたよな。怖い怖い。

憶測その5

何も考えていない。ただなんとなく消してる説。

意外とありそう。無差別削除は合理的な判断だとは思えないもん。企業のイメージが悪くなって長期的に悪影響が及びそう。

さらに、削除を警戒し、K社のコンテンツについて誰も語らなくなったらマズいのでは?口コミによる宣伝効果を失った結果、作品の知名度が上がらず売上が伸びないリスクを考えてないのかね?

「悪名は無名に勝る」という言葉もある。実際「スマホ太郎」や「黙れドン太郎」は、ネタとして話題になっていなかったらもっと知名度が低かったはず。広く知れ渡ったおかげで得してると思うのだけどね。

レビューを含め全てを管理下に置かないと安心できないのかね?理屈ではなく不安感が原因で消しているのだとすると呆れる。そんな経営方針で大丈夫か?

おわりに

K社は何を考えているのかよく分からず不気味である。むやみやたらに動画を消すのは悪手だと思う。賢いやり方ではない。

元もコンテンツ潰しやファン切り捨ても厭わないスタンスで印象が良くなかったK社だが、今回の件でますますイメージが悪化している。

ファンとともに作品を盛り上げようという姿勢が見られず、企業の一方的な都合で物事を考えているのがよく分かる。ファンをただの金づるとしか見ていないし、コンテンツも単なる売り物で使い捨て可能なものとしか考えていないようだ。

K社のコンテンツには一切金を落としたくなくなったよ。なろう系以外で好きな作品もあったけどもう新品では買わない。

焼畑農法のようなビジネスモデルは長続きしないと思う。Webから素人の小説を持ってきて紙に刷って売るチョロい商売もそのうち成り立たなくなる。

なろう系全般が飽きられてしまった時、次のコンテンツはあるのか。ちゃんと新人作家を発掘し育てているのか。魅力のある自社コンテンツは作り出せているのか。疑問である。


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