【書籍版】『回復術士のやり直し』第2巻感想(前編)

なろうの王にしてツンデレフィストファッカーの狐作家、月夜涙大先生によるライトノベル『回復術士のやり直し ~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~』第2巻を読んだ感想です。

第1巻の感想はこちら

長くなるので記事を前後編に分けました。今回は前編。全体的な感想と150ページまでの具体的な記述について語ります。

ちなみに2巻は以前に1巻と同時に購入していたのですが、失念して同じのをもう一冊買ってしまいました…。

まあ、同じと言っても後で買った方は表紙が違うのが救いでした。特製カバーで裏側にもイラストが描いてあるやつですね。

筆者はアニメ版を全話視聴済み。今回の感想もアニメを見ている前提で書きます。

◆関連記事:アニメ『回復術士のやり直し』1期振り返り感想&不満点まとめ

原作小説2巻の内容はアニメ版の4話~7話に相当します。

放送から約半年が経過しており、いまさらという感じはしますが、アニメ版で説明されなかった設定やカットされたストーリーを中心に見ていきましょう。

全体的な感想:少々薄い

原作小説はアニメ版と比較して日常パートの分量が多め。

緊張感のない日々の生活を描く部分がメインで、たまに盛り上がるイベントが起こるという印象。食事の描写にやたらと文字数を使ったり、フレイアの修行で一話使ったりします。

その結果、本筋がなかなか進みません。

人によっては中身が薄い作品だと感じることでしょう。重要度の低そうな場面が長く続くとダレますね。

アニメ版はあれでも原作から盛り上がるエピソードを抜き出して構成されていたんですね。

アニメは8話辺り(原作3巻相当)から日常パートばかりになり、刺激がなくなりましたが、原作では2巻の段階で既にダラダラした展開になっています。

なお、映像で見ると面白かった場面も文章で読むとあまり迫力がなく、面白みに欠けるように感じました。例えば主人公のケヤルガがコロシアムで暴れる場面ですが、小説だとあっさり終わってしまったという印象。

なんかこう、起こったことが淡々と書かれているだけで、緊張感を高める演出的なものが存在していません。なろう小説は描写が淡白なことが多いですが、本作も例外ではないですね。

台本みたいな感じであっさり描写されているので、本来は残酷なはずの殺戮シーンでも感情を動かされません。アニメ版だと血がブシャーと飛び散ったりして、インパクトの強い場面だったのですが。

でもまあアニメや漫画の素材として見れば悪くないのかも…。余計な描写がない分、演出家や漫画家が独自のアレンジを加えやすいのかもしれません。

原作小説はともかく、アニメや漫画はそこそこ売れてるみたいですし、メディアミックスの素材としては優秀なのでは?…と擁護してみます。

アニメ視聴済みなら楽しめるかも?

単体の小説としては微妙でしたが、アニメ版の解説書として読む分には面白かったですね。意外なことに、アニメ版を見た時に抱いた疑問に対する答えが原作にはしっかり書かれていました。

アニメ版の感想記事では多くの点に突っ込みを入れたのですが、それら突っ込みどころに対する説明がピンポイントで書かれていたのは驚きです。映像を見ただけでは分からなかったけど一応理屈は考えられていたんですね。

てっきり何も考えていない結果の支離滅裂展開だと思ってましたよ。原作を読んでみて、辻褄合わせのための設定(言い訳?)が存在していることは分かりました。

ただし、設定・説明が存在することと、それに納得できることは別の話。設定が用意されていても、説得力がなければ意味がない。「かなり無理があるんじゃないの?」と思ってしまう設定もありました。

極端な話、どんな超展開でも「そういう世界だから~」と言ってしまえば作品内の辻褄はあってしまうんですよね。作品内で整合性が取れていることと、読者が納得できることは別の問題です。

例えば、某小鬼を殺す作品の舞台は神々のサイコロ遊びらしいです。登場人物はゲームのコマみたいなもの。よってどんな突拍子のない展開でも正当化することが可能っぽいですよ。

整合性に突っ込まれても「神々の遊戯だから~」と言えば反論になります。そっちの原作は読んでないので、その認識が合っているか分かりませんけどね…。

某作品に関する余談ですが、主人公の仲間になった女の子たちが絶対に小鬼の被害に遭わないのが不満でした。なにか特別な力が働いてる感じで、間一髪で難を逃れます。

急に登場したモブがやられても興奮できないんですよね。旅を共にしたよく知っている仲間が被害に遭ってこそ意味がある。

なろうと同じく、主人公の所有物が傷物になる展開を嫌がる読者が多いんですかね? 読者への配慮の結果なのかな?

2巻を読んで分かったこと

ここから本編の具体的な内容に言及。アニメ版では明かされなかった設定やカットされたシーンについて書きます。

哀れ!近衛騎士隊長の血縁者

近衛騎士隊長レナードは、主人公ケヤル(ケヤルガ)によって王女殺しの犯人に仕立て上げられました(1巻参照)。その結果、彼の血縁者は全員処刑され晒し首にされたそうです(p.8)。

ケヤルガは「復讐の美学」とか「己を害さないものは害さない(1巻 p.298)」とか言ってますけど、最初の復讐を行った時点で関係ない人間が大勢死んでるんですよね。

レナード本人はともかく、血縁者は完全にとばっちり。復讐ごっこに巻き込まれた被害者です。お気の毒に…。

ちなみにヒールでケヤルの姿に変えられたレナードですが、虐待しすぎて死にそうになったのでエリクサーを使ったら喉が治り、自分が近衛騎士隊長だと叫び出しました。そこで鑑定紙を使い本人だと証明したみたいです。

鑑定紙のシーンは、アニメ版3話のCパートにありましたね。

転生者なの?

セツナの魚の獲り方を見て「まるで熊だな」と言うケヤルガ(p.17)。

彼は熊が魚を獲っているところを見たことがあるんですかね?故郷の村の近くに熊が出没するのでしょうか?そうじゃなかったらその知識を持っているのはおかしい。

テレビやネットのない異世界の人間なのだから、生で見たことがなかったら「まるで熊だな」などという感想を持つことはないと思います。

現代日本からの転生者なら、熊がシャケを獲るシーンをテレビで見ていてもおかしくはないのですが。

1巻からそうでしたけど、この作品って異世界転生モノみたいな感覚で書かれてるんですよね。主人公はなぜか現代知識を持ってますし。

こういう整合性の取れていない描写を見る度に思いますけど、異世界転生設定は便利ですね。現代知識を出しても整合性を損なわないし、倫理観も現代のものでOK。主人公が転生者だと書き手は楽ができます。

一方現地主人公を出す場合、異世界人の価値観がどのようなものかあらかじめ考え、設定を練っておく必要がある。何も考えずテキトーに書くとこの作品みたいにボロが出るので難易度が上がりますねぇ!

「小説家になろう」のランキングで異世界転生が隔離されて以来、現地主人公の作品が増えたらしいですが、結果として本作みたいに設定がガバった作品も増えてそう。

なおケヤルガは、赤褐色のコミソという調味料を使いコミソ汁なるものを作ってます(p.24)。この作品も本当は異世界転生でやりたかったけど、隔離されたから仕方なく現地主人公でやってるんでしょうね。

ちなみに『俺だけ入れる隠しダンジョン』には、日本からの転生者が醤油や味噌を持ち込んだという設定がありました。

主人公が異世界人でさえあれば日本から転生者が来ていてもOK(隔離されない)らしいので、現代知識や日本の食材を使いたい場合には、脇役として日本から転生者を送り込みましょう…ってこと?

追記:ヒールで他人の記憶を覗いた際、熊が魚を獲っているのを見た可能性はありますね。整合性が取れてないとまでは言えないか…。)

疑惑のセリフ

俺は、俺から奪う奴を許さない」(p.39)

俺は、俺から奪おうとするものを許さない」(p.53)

俺は俺から奪う奴を許さない」(p.62)

月夜大先生はこの言い回しが大好きみたいですね。

なお、元ネタは『聖剣使いの禁呪詠唱(通称ワルブレ)』の

俺は俺から奪っていく奴を絶対に許さねえ!

だとネット上で言われています。

月夜先生の作品には盗用を指摘されているセリフが数多く存在しますが、多少言い回しを変えたりしているので完全に黒とは言いづらいんですよね。

それ以前に、そっくりそのままセリフを流用しても著作権侵害にならない場合が多いみたいです。

著作権法上、短いフレーズはよほどの独創性がない限り著作物として認められないからです。もしこのセリフについてワルブレ作者が訴えたとしても、勝てないような気がします。

(※あくまで素人の見解です。絶対に合法とは言い切れません。正しい法解釈を知りたい方は法律の専門家に相談してください。)

まあ、法的に問題がなかったとしても印象は良くないですよね。パロディやオマージュとして使うならまだしも、他作品のセリフを自分で考えたみたいに堂々と使ってますからね。文句を言いたくなる気持ちは分かります。

小物を毒殺

ケヤルガは街で絡んできた小物(脱走兵)を、暗器に塗った遅効性の毒で殺害しました(pp.39-41)。アニメ版ではセツナに命じてその場で殺害しています。

で、その後の文章が矛盾しているように見えて面白かったので一部引用します。

毒針で刺された者は、「苦しみ抜いて、もがきながら死んでいく」らしいのですが、直後に「騒ぎを起こさず始末するのにちょうどいい」と書かれています。

いや、もがき苦しみながら死んだら騒ぎになるでしょ? 眠るように息絶える毒なら分かるけど、もがき苦しむ毒はその手の暗殺に向いてないと思いますよ。

まあこれは悪意のある解釈です。作者の意図を忖度するなら、「すぐには死なない毒だから、騒ぎが起こる前にその場を離れられるぜ!」ということなんでしょうね。分かりにくいですが。

22人の刺客

ポーションを取引している商人は22人もの刺客を送り込み、力づくでケヤルガから薬の情報を手に入れようとします(pp.44-47)。

このシーンはアニメ版ではカットされていました。商人は襲ってきそうで襲ってこなかったです。作画コストを抑えるためかな?

しかし22人はなんだか多いですね。ケヤルガがいちいち人数を数えたと思うと面白い。

【重要】剣聖がケヤルガを襲った理由

アニメ版5話には、街を歩いているケヤルガに剣聖クレハ・クライレットが突然斬りかかるシーンがありました。ここは何度見返しても意味が分かんなかったんですよ。

ケヤルガは氷狼族の村を守るため王国兵を殺害しましたが、その際は変装していました。外見で王国兵殺害の犯人だと断定するのは不可能です。

しかもヒールで顔を変えているので、王女殺しのケヤル=ケヤルガとはならない。

にも関わらずクレハは躊躇なく斬りかかってきたので、頭のおかしい辻斬りにしか見えませんでした。

原作にはこの場面の説明が存在します(pp.58-59)。なんと、クレハはケヤルガの歩き方を見て王国兵襲撃の犯人だと判断したのだそうです。

ケヤルガ(ケヤル)は、以前クレハをヒールした時にクライレットの剣技をコピーしています。さらに王国兵を襲った時、ケヤルガはクライレットの剣技を使用しました。

その場面を目撃した兵士がクレハに伝えたので、襲撃犯はクライレットの剣技を使う者に絞られました。

クレハは街中の人間を観察し、クライレットの剣技を使う者特有の歩き方をしているケヤルガを発見。尾行して襲撃したそうです。

なんか分かるようで分からん説明ですよ。剣技を【模倣(ヒール)】すると歩き方まで変わってしまう設定なんですね。まあ歩き方も技の一部というのは分からんでもない。

しかし、ケヤルガは自分用に技を作り変えている描写もありますし、スキルを使うかどうかも自分でコントロールできると思うのですが。

戦闘時に歩き方が変わるのなら分かるけど、普段の歩き方まで変わってしまうというのは感覚的に変な感じです。常にスキルを使い続けないといけないのでしょうか?

うーんやっぱり話の都合で無理やり理屈を作ったように見えてしまうなぁ…。普通なら絶対ばれないはずなんですよね。変装してるし。

どうしてもクレハとの接点を作りたかった作者が、苦し紛れにでっち上げた設定なんじゃないのかな? 少々無理矢理感がある。

どうせご都合主義になるのなら、「クライレットの剣技を使い戦闘しているケヤルガをたまたま目撃した」という流れにしてくれたほうが、まだ納得できたと思います。

ヒールがなんでもあり

前からなんでもありでしたが、今回は【改良(ヒール)】で他人の頭に記憶を叩き込んでいます(p.78)。

どういう理屈なのか全く分かりません。

さらに、記憶は消せないけど、思い出せないようにすることは可能という謎設定もあります(1巻 p.161)。

イチイチ考えるだけ無駄ですか、そうですか…。

クレハは洗脳されていない

アニメを見た限り、クレハは媚薬でアヘアヘにして洗脳したように見えたのですが、原作によると違うようです。ケヤルガは洗脳しておらず、説得の結果自分の意思で仲間になったということらしい。

うーん、やっぱチョロインだったのね。頭も股も緩いチョロイン。ショッキングな記憶を流し込んで、フレアと小芝居をやったらすぐ信じて寝返りました。

「この子(クレハ)はひどくだましやすい」(p.92)と地の文に書かれていますし、「想定どおりのちょろさだ」(p.99)という記述もあります。公式チョロインなのか~。

それって洗脳なのでは?

ケヤルガは、「洗脳するつもりはないが、俺のことしか考えられないように心と体を支配してやる」と考え、部屋に媚薬を漂わせ、催眠魔術を使ってからクレハを犯します(p.101)。

いや、それってもはや洗脳と変わらないのでは? 洗脳の定義が分からなくなってきましたよ…。

媚薬だけならギリギリセーフかもしれないけど、催眠魔術を使っちゃダメでしょ。

これってもしかして、ケヤルガの頭が狂っていることを伝えるための描写なんですかね?

それとも、ただ単に作者がテキトーに書いたから矛盾して意味不明になってるんですかね? 考えれば考えるほど頭が混乱する難解な作品ですよコレは。

ラナリッタに王国兵が来た理由

ケヤルガが滞在している都市、ラナリッタに王国兵が来たのは回復術士が現れたという噂(ガセ)があったからだそうです。薬を売っていた話に尾ひれがついたらしい(p.116)。

アニメを見た時は「なんで居場所がバレてんだよ!」と思ったけど、単に運が悪かっただけなのね。

王国は怪しい人物を片っ端から鑑定紙(名前やステータスが分かる)で調べるつもりだったらしい。

ところで鑑定紙で名前を調べるのって意味があるんでしょうか? 同姓同名の人だったらどうすんだよ…。ケヤルってあの世界でも珍しい名前なのか?

あと、この世界の人間は王族を除いて名字がないみたいです。だとすると同じ名前の人間がごまんといそう。

さらに改名したらどうなるのよという疑問も。本当の名前が分かるってどういう意味なんでしょうね?

例えば、昔の日本では成長に従い名前をコロコロ変えるのが普通でした。鑑定紙を使って見える名前はいつのものなのでしょうか? 実際ケヤルはケヤルガに改名してますし、現在の名前が出るのだったらバレずに済みますよね…。

この辺の設定がよく分からないです。

なろう系ではよくあることですが、ゲーム的設定をよく考えず生身の人間のいる世界に持ち込んだせいで数々の矛盾が発生しています。ステータスやレベルが出た時点で、深い考察は無意味だと諦めるべきなのかもしれません。

レナードにケヤルガの居場所が分かった理由

近衛騎士隊長レナードはアニメ版の6話冒頭で、「傷がうずくからケヤルガはこの街に絶対にいる」みたいなことを言っていました。

自分で自分に付けた傷がうずいて居場所が分かるという理屈は意味不明だったのですが、原作には説明がありました。

単にクレハを通して情報を流していただけなんですね。レナードをおびき出すためにケヤルガがわざと居場所を教えさせたというのが真相(p.145)。

傷がうずく描写自体は原作にもあるのですが、あくまで情緒不安定になったレナードが適当なことを言っていただけでした。場所が特定できたのはクレハの情報のおかげです。

また、氷狼族の村での戦いでフレイアが撃った魔術の痕跡を見たレナードは、フレア王女の生存に気づいていました。

レナードがフレアに執着していることを知っていたケヤルガは、脱走兵になりすまし「フレアの居場所を教える」という嘘をついてレナードに近づきました。

細かい点ですが、アニメ版では「ケヤルの居場所を教える」という風に変更されてましたね。

後編に続く

長くなったので今回はここで終わります。

続きはこちら:【書籍版】『回復術士のやり直し』第2巻感想(後編)&毒虫くんについて

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