月夜 涙先生の新作ライトノベル『捨てられエルフさんは世界で一番強くて可愛い!』の感想を書きますよ。
この作品の内容をまとめると以下のような感じ。
炎上して干された女性声優が、女神からメッセージを受け取ります。なんと世界を救えば現実世界で願いを叶えてもらえるようです。そこで彼女は、過去を改変し再び声優として活躍するため異世界に転生。厳しい戦いに臨むという話です。
基本情報
- 著者:月夜 涙
- イラスト:にじまあるく
- レーベル:角川スニーカー文庫(KADOKAWA)
- 発売日 : 2024年05月31日
- ISBN : 9784041149157
- 公式サイト:捨てられエルフさんは世界で一番強くて可愛い! | 書籍情報 | スニーカー文庫(ザ・スニーカーWEB)
※著作権に配慮して書影は貼りません。ご了承ください。
待望の新作
月夜 涙先生は、小説投稿サイト「小説家になろう」出身のライトノベル作家で、様々なレーベルから数多くの作品が出ています。
本作と同じく角川スニーカー文庫から出ている『回復術士のやり直し』と『世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する』(通称「暗殺貴族」)はアニメ化され、「暗殺貴族」は第2期放送が決定済み。
そんな大物ラノベ作家の月夜先生ですが、もう何年も「なろう」の更新が止まっており、「回復術士」と「暗殺貴族」の続刊こそあるものの刊行ペースは遅く、長らく新作発表がない状態でした。
速筆が自慢であった月夜先生とは思えない変わりように、ネット上では、「半分引退状態でウーバーイーツをして生計を立てているのではないか」「深刻な心の病で療養しているのではないか」という憶測が飛び交っていました。
(※「暗殺貴族」第7巻あとがきによれば、精神を病んだのは事実だったみたい)
X(旧Twitter)の投稿も長期間止まっていて、このままフェードアウトするのかなと思っていたので、突然の新作発表には驚きました。
ちなみにネット上の一部熱狂的なファン(?)は月夜先生のことを「なろうの王」「月夜王」と呼んでいたので、彼らにとってはまさに「王の帰還」でしょうね!
何かと疑惑の絶えない作家だったので、ついに出版社に見放されたのではないかという憶測もありましたが、活動を続けられているようでなによりです。KADOKAWAとのENISHI(※本作に登場するシステム)を感じる。
あと、本作『捨てられエルフさんは世界で一番強くて可愛い!』は久しぶりの新作であると同時に、「なろう」を経由していない書き下ろし作品となっています。
書籍化経験のある作家であっても、別の作品を書籍化するには再度「なろう」で人気(ポイント)を得ないといけないと聞いたことがありますが、月夜先生クラスになると書き下ろしで新作が出せるみたいです。
流石に2本もアニメ化している大物になると出版社の対応も違うのでしょう。
ちなみに本作「捨てられエルフ」の構想は2021年4月頃からあったみたい。「回復術士」アニメ放送が終わった頃でテンションが高かった時期ですね。過去のTwitter(現X)投稿を引用します。
修羅場っている合間の息抜きというか、現実逃避に新作の構想練っている
「棄てられハイエルフさんは世界で一番強くて可愛い」ってタイトルで、可愛いエルフさんが後ろからキツネ耳幼女を抱きしめて笑っている表示のイメージが浮かんでる。売れる気がするし書きたいけど、まず修羅場を抜けないと— 月夜 涙@世界最高の暗殺&回復術アニメ化 (@Tsukiyo_rui) April 28, 2021
さて、本作の中身についてですが、従来の月夜作品や「なろう系」作品と共通した要素が見受けられます。
ただし、チートで楽々とか、出会う人みんなから称賛されるとかはなく、割とシリアス寄りの内容でした。
リアルでも異世界でも主人公にはハードな状況が続きます。これは「なろう」を経由していないからこそできた展開かもしれません。逆にいつものストレスフリー展開を期待してると物足りないかも……。
最後まで読んだ感想ですが、全体としては楽しめる作品でした。終盤の盛り上がりは秀逸ですし、導入部分の意外な展開に引き込まれました。
ただ、導入が終わった後から中盤にかけてのテンポが緩やかなので、人によっては中だるみと感じるかもしれません。
それでも最後まで読めば一定の満足感を得られる人が多いと思います。
※※以下、少々ネタバレがあります。ご注意ください※※
物語の核心部分は書きませんが、事前情報なしのまっさらな状態で読書したいという方は、ブックマークして後で読んでいただけると幸いです。
ストーリーの流れ
この章では簡単なあらすじと、それに対する筆者の感想を書いていきます。
プロローグ
炎上して干された元人気声優・伊織綾乃(いおりあやの)は、部屋に引きこもってVRゲーム(※)に明け暮れていました。
そんなある日、ゲーム内の女神からメッセージが届きます。ゲームの舞台は実在する異世界であり、転生して異世界を救ってほしいという内容でした。
さらに世界を救えば褒美として元の世界(現代日本)で、願いを一つ叶えてくれるそうです。
疑いながらも願いを叶えるという条件に惹かれた綾乃は、炎上した過去を消し再び声優として活躍するため、転生を決意するのでした……。
(※具体的にはファンタジーなVRMMO。日本語だと仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム)
主人公が元声優という要素を除けば、よくある設定・展開ですね。主人公が攻略済みのゲームにそっくりの異世界に転生・転移して、ゲームで得た知識を活かしつつ事件を解決していくタイプの作品です。
アニメ化された「なろう系」作品で言うと、『くまクマ熊ベアー』や『賢者の弟子を名乗る賢者』がこのタイプ。月夜作品で言うと『チート魔術で運命をねじ伏せる』が同じような設定でした。
あと、女神が強大な敵から異世界を救うため別の世界の人間を呼び出すという設定は、「暗殺貴族」とも共通しています。女神の性格も似てますし。
さて、綾乃はアヤノとして、超高スペック種族であるハイエルフの赤ん坊に転生したのですが、周囲にダークエルフだと誤認され、忌み子として捨てられてしまいます。
ここで早くもタイトルの「捨てられエルフ」の部分が回収。
しかも捨てられ方が結構壮絶で意外性があり、続きが気になる導入でした。この辺はテンポもよく、話の始まり方として完成度が高いなと感じました。
1話から4話まで
初っ端から命の危険にさらされたアヤノ。赤ん坊の状態ですが、ゲームの知識を活かし地道にモンスターを倒していきレベルアップ。少女の姿になることができました。
その後、街に向かい、捕まっていたキツネ耳美少女ホムラを救出し仲間に加えます。
このあたりまではテンポが良く読みやすかったです。
5話から11話まで
ここからしばらくはアヤノとホムラの2人がレベル上げ・転職・アイテム収集をする話になります。
山場までの準備パートみたいな感じ。小さな盛り上がりポイントは用意されていましたが、個人的には物足りなかったです。悪く言ってしまうと作業を見せられている感覚。
それと世界観やゲーム的な設定の説明が多めで、中には複雑なものありました。いつもの月夜作品だなぁと思いましたよ。読者としては設定ではなく物語を読みたいのだが……。
ちなみに「回復術士」原作小説にもこういうパートがあったけど、アニメ版ではごっそりカットされてました。
まぁ、それでもいつもよりは簡潔になっていると思います。「説明の羅列」って感じの過剰さはなく、抑制は効いています。無駄な描写は極力削ってる感じ。料理うんちくの描写もほとんどなかったですし。
ただ、それでも個人的にはスラスラ読める感じではなく、気合を入れて読みました。
可能であれば、中盤にもう少し大きめの見せ場を用意してほしかった。まあまあ強い敵モンスターは出たけれども、小粒に感じてしまいました。ストーリーを盛り上げるような敵ではなかった。雑魚狩りの延長線上です。
「回復術士」1巻には、2回山場があったんですよねぇ。物語としては2つの大きな塊になっていて、5万文字くらいで一回オチがある構成。できれば今回もそういう構成にしてくれた方が読みやすかったかも。
本作は最後の盛り上がりがすごいけど、そこまでが比較的平坦だと思いました。
なお、断っておきますが、この感想を書いている筆者が楽しめなかっただけです。このパートを読んで楽しめる人はいると思います。好みの問題ですね。
ゲーム的異世界が好きだったり、ゲームの細かいパラメーターの設定を読むのが好きな人は楽しめるでしょう。
第12話から16話
アヤノの暗い過去が語られるとともに、かつて一緒にゲームをプレイしていた知り合いの存在が明かされます。
個人的には、ここから急に読みやすくなりました。ここまでの話とはだいぶ雰囲気が変わります。内容的にも文章的にもね。
このパートは平均的「なろう系」作品より格段に面白いと感じました。
あと、これまではアヤノとホムラ二人の会話が中心だったので、他の人物との掛け合いがあるのは新鮮で良かったです。
新しいキャラとの絡みや回想によって、アヤノのクセの強い性格がより強調され、人物としての深みが増した思います。
第17話
本作最大の山場です。第一のグランドキャンペーン(ボスイベント的なやつ)が始まり、トッププレイヤーたちが集結し、各々工夫しながら強大な敵と戦います。
緊迫感があって読み応えのある話でした。激しい戦闘の様子が伝わる描写で、この話は文句なしに面白いと言いたいです。
エピローグ
女神のミッションをクリアして現実に戻り願いを叶えたいが、絆を深めたホムラと別れたくはない……。アヤノは矛盾した2つの思いを抱えたまま、余韻を残して1巻が終わりました。
未解決の謎があり続きが気になる終わり方で良かったと思います。
登場人物について
主観で書くので読む人によっては違う印象を抱くかもしれません。あくまでも筆者の受けた印象だと理解していただけると嬉しいです。
アヤノ
主人公のアヤノは我が強く基本的に上から目線。ちょっと嫌なやつだと思いました。
本作は一人称視点で書かれているため彼女の思考が見えますが、自画自賛をしたり、あらゆるものをバカにしたり、人の不幸を願ったりするのであまり良い印象を持てません。
第一印象は「ノリの軽いオタク」でしたが、後に、意外と冷淡で損得勘定で動いていることが判明。基本的に自分しか信用していない感じで、目的のためなら他者を蹴落とすことも厭わない性格でした。
一言でいうと性格が悪い人物ですね。しかもアニメ・マンガ的に誇張された性格の悪さではなく、妙に生々しい性格の悪さで、お近づきになりたくないタイプ。
浮世離れした「なろう系」サイコパス主人公とは異なり、ある意味人間臭いとも言えます。
ただ、過去にいろいろあったみたいなので同情の余地はあるかも。荒んだ現代社会、厳しい声優業界で生き残るために苦労を重ねた結果、こんな性格になったのかもしれません。
それと、性格が悪いのに周りから聖人扱いされるという矛盾した描写はありません。そういう意味では設定に一貫性があって良いと思います。「なろう系」作品ではクズなのに聖人扱いされる描写がありがちだからね。
アヤノはあえて性格が悪いキャラとして書かれているのでしょうね。女神から、そんな性格なのに体を売ってないのは不自然と言われますし、作中でも倫理を捨てていて手段を選ばない人物と認識されています。
この先、ホムラとの旅を通して少しずつ優しさや正義感を取り戻す展開になるんでしょうかねぇ?
王道を行くならそういう話になりそうですが、月夜作品の場合はどうなんでしょう。今回は書き下ろし作品であるため「なろう」特有の制約はないのでどう転ぶか期待。
あと、ネタバレになるので詳細は書きませんが、アヤノの声優時代の炎上はほぼ不可抗力だったという設定でした。
ただ、この性格じゃそのうち恨みを買って、意図的に炎上させられてもおかしくないと思いました。本人は賢く世渡りしていると思っているのでしょうけど、知らず知らずのうちに敵を作るタイプに見えます。
女神の力でやり直せても幸せになれるのか疑問。性格が変わらなければ、どこかでまた問題を起こしてやり直したくなりそう。2巻以降で人間的成長が描かれるのか期待です。
あと、アヤノって自分を絶対に裏切らない人形しか愛せない、寂しい人みたいなんですよねぇ……。人間不信的な?
人間には愛情を示さず冷徹に利用価値で判断しているけど、ホムラにだけは無条件に溺愛と言えるような強い愛情を示しています。このギャップよ……。
人間が嫌いで二次元しか愛せない一部のオタクなどの姿に重なります。ただこの点を追求するとブーメランが返ってきそうなのでやめておきましょう。
ホムラ
ホムラは、アヤノの希望に沿って世界(女神?)が用意してくれたキツネ耳の美少女です。
こう書くと誤解を招くかもしれないので補足します。転生前にシステムメッセージがアヤノに理想のヒロインを尋ねました。その回答を元にヒロインとして準備されたキャラです。うーん、補足してもあんまり変わらないか?
世界の滅びに関わる重大なキャラだそうですが、今は記憶喪失。出会ってすぐにアヤノに懐いて相思相愛になります。
従順で主人公を全肯定してくれるチョロイン。内面のない人形としてのヒロインですね。月夜作品に限らず、「なろう系」作品ではよくお目にかかります。
ただ、今回は意図的に、メタ的にそういうキャラ造形になってる気もします。
本作では世界の謎や女神の真の目的が重大なテーマになっており、アヤノが、女神は転生者たちを見世物にしているだけなのではと疑う描写があります。
アヤノの仮説が正しいとするとホムラは文字通り人形やゲームのコマなのかもしれません。
また、本作はメタフィクションのような構造になっている可能性があります。我々読者にとっては小説内の人物って見世物みたいなものですからね。女神は作者や読者と同じ次元の存在なのかも?
アヤノの知り合いプレイヤーたち
知り合いプレイヤーたちも転生して異世界に来ています。
詳しい説明をするとネタバレになるので自粛しますが、それぞれの過去があり、強い思いや悩みを持っていて、厚みが感じられる人物たちでした。ただのモブとは違い、血が通っているように思います。
記憶喪失で過去がなく、内面も希薄なホムラとは非常に対照的です。こういう点からも本作がメタフィクションじゃないかと疑ってしまう。
作者の実力の関係で血の通った人物が書けないわけじゃないんですよね。ホムラは意図的に作り物っぽいキャラにしている気配があります。
さっき好きになれないと書いたアヤノも、内面はしっかりあるんですよね。良くも悪くも強い欲望を持っている血の通った人物です。
全体的な感想
良かった点、気になった点を挙げます
良かった点
チートで楽々クリアではない
元のゲームが死に覚えゲーだったこともあり、アヤノは相当ハードな戦いを強いられることになります。復活できず、一度負けたらおしまいというルールも緊張感を生んでいます。
主人公が現実でやり直したい
「なろう系」転生モノには、主人公が現実のことなんてすっかり忘れて、異世界をエンジョイする作品が多く、「現実の家族や友人に未練はないのか!?」いうツッコミを受けることも少なくありません。
一方、本作は現実をやり直すために異世界に行き、過酷な試練に臨むという点が独特で面白かったです。
さらに、現実に戻ってやり直したいけど、異世界で出会った仲間と別れたくないという悩みを持つのも良かった。葛藤があるのはいいですね。
仲間を現実世界に連れて帰ればOKみたいな、安易な結末にならないことを祈ります……。
いや、炎上をなかったことにする願いを諦める代わりに連れて帰るという展開ならアリかも?
女性主人公が新鮮
月夜作品で主人公が女性というのは珍しいです。
ただ、女性主人公の作品がまったくなかったわけではないらしい。筆者は未読ですが『異世界の洋食屋きつね亭』の主人公は女性のようです。
消されてないので「なろう」で読めます。主人公は佐山トオルという名前。トオルは男女どちらにも使える名前なので一見男性主人公だと思ってしまいますが、彼女と書いてあるので女性だとわかります。
「トオル」が男女両方に使える実例を挙げると「お、トオルか?」のトオルは男性。『Aチャンネル』のトオルは女性です。
百合風味
本作でも例のごとく、主人公がキツネ耳ヒロインに対して過剰な愛情を示しますが、女性同士だと百合みたいになるので違和感が緩和されているような気がしました。
魅力的な脇役
前述のように詳しくは書けませんが、血の通った脇役がいるのはいいですね。
興味深い謎要素
女神の真の目的、世界の秘密、ホムラの出自など、興味深い謎が散りばめられ、続きが気になるストーリーになっていました。
気になった点
設定の説明が多い
ゲームの設定が、良く言えば丁寧に、悪く言えばしつこく説明されています。
文字数稼ぎでやっているのではなく、この作者はこういうゲームの設定を考えて書くのが楽しいんだろうなと推測します。本作だけではなく毎回ですからね。
ヒロインがチョロい
もう少し仲良くなる過程を描いてほしかったですね。いきなり好感度MAXでは面白みに欠けます。まあ今回はあえてなのかもしれないけど……。
あと、ホムラは月夜作品の量産型ヒロインですね。キツネ娘が好きなのはわかるけど、いつも同じで個性的とは言えないのよね……。
キツネではないですが「回復術士」に出る狼娘のセツナにも似ています。
エグい暴力と胸糞描写
全体で見ると分量は少なかったけど、序盤にちょっとだけありました。やっぱり「回復術士」の作者だなぁと……。腹パンされたり、性的に乱暴されそうになったりします。
密かな性癖暴露
アヤノは13、14歳が一番可愛い年頃と考えています。
これだけならフィクション内の登場人物の嗜好でしかないのでいいのですが、昔作者がTwitterに同じようなことを書いてたんですよね。そのへんの年頃がストライクゾーンだとか。
女性主人公とはいえアヤノが作者の分身だと思うと……。
そのほか
現実世界のドロドロ要素
アヤノの声優時代の話がありますが、読んでいて心が荒むような内容でした。声優界の裏側について露悪的に書かれています。
『【推しの子】』か何かにインスピレーションを受けたんでしょうかね?
パロディの多用
他作品のパロディが多かったですね。ゲームとかマンガとかいろいろ。この点は好みが分かれると思います。
それと、伏せ字している作品とそのままタイトルを載せてる作品の違いが気になりました。角川グループか否かというわけでもなさそうだし。
スペルミス
p.61にスペルミスを発見。「ステータスが見れらる」
ところで現代でも誤字・脱字を指摘する手紙を送ると図書カードがもらえたりするんでしょうかね?
「あとがき」が「あらすじ」
この作者の「あとがき」は、「あらすじ」を再度説明するだけで終わることが多いのですが、今回もそうでした。近況報告など作品に直接関係ないことでもいいので書いてくれると嬉しいです。
なぜかと言うと、小説の「あとがき」は作者の生の声が聞ける場所であり、個人的に読むのを楽しみにしている部分だからです。作家の個性が出るのがいいんですよね。
まとめ
本作『捨てられエルフさんは世界で一番強くて可愛い!』は、月夜 涙先生の久しぶりの新作かつ書き下ろし作品だったので、ワクワクして読み始めました。
結論としては、従来の月夜作品の特徴を色濃く残しつつも、新たな挑戦が見られる意欲作だと言えるでしょう。
メタフィクション的な要素を取り入れており、興味深い構造になっています。「なろう系」のお約束から外して新しいものを作ろうという意思が感じられました。
全体的に見ると、中盤の展開が平坦で刺激が足りませんでしたが、クライマックスに至る怒涛の展開のおかげで最後まで読んで良かったと思えました。
未解決の謎が残る終わり方は、次巻への期待を高めるのに効果的な手法だと感じます。続きが読みたくなりました。
本作は、いつも通りの月夜作品やストレスフリー展開を期待するファンには物足りないかもしれません。主人公の性格がキツめなので人によっては不快感を覚える可能性があります。
中盤の盛り上がりがやや不足していたり、作者のクセで説明描写が多めになっていたりもするので、万人におすすめできる傑作かと言われると微妙です。
ただ、これまでとは趣の違う月夜作品を読みたい人や、「なろう系」テンプレ作品に飽きている人、ゲーム的な異世界が好きな人には一読の価値があると思います。
万人向けではないとしても、決して完成度の低い作品ではありません。少なくとも、従来のパターンやテンプレをなぞらず、新しいものを作ろうという試みが成功している点は評価すべきでしょう。
雑談コーナー:炎上と裏垢の話
感想は終わりにして、ここからは雑談的なことを書きます。本作の主人公は炎上して干された女性声優でしたが、現実世界でも有名声優の炎上が相次ぎましたね。
直近ではベテラン男性声優が女性に対して不適切(というか鬼畜)な行為をしていたことが発覚しましたが、個人的にショックだったのはその前の「ドヤコンガ騒動」です。
人気女性声優が裏垢で暴言を吐いていた(可能性が極めて高い)なんてね……。
この騒動は意外と複雑です。筆者はこの声優界隈を追っていたわけではないので事実誤認があるかもしれません。できれば詳細は検索してほしいのですが、単純化して書くと以下のようになります。
ドヤコンガというのは、某人気女性声優の過激なファン(狂信者)として知られていた、匿名の人物のことです。
このドヤコンガは、以前から、ただのファンではなく声優本人なのではないかという疑惑を持たれていました。
声優本人しか知り得ない情報を書き込んでいたり、文体が酷似していたり、声優の生放送中に投稿がなかったり、状況証拠的に怪しかったみたいです。
そこへ今年(2024年)の4月、大事件が起こります。某声優のX公式アカウントに、ドヤコンガそっくりの文体の暴言が投稿されました。
この投稿はすぐに消されたものの、直後、ドヤコンガのXアカウントが消えるという不審な動きがあったので、声優が誤って公式アカウントに裏垢用の投稿をしたのではないかという疑惑が生まれました。
後に公式アカウントは「不正アクセスにより乗っ取られた可能性がある」という苦しい釈明を行いましたが逆効果。むしろ疑いが増しました。
不正アクセスってねぇ……。
誤爆後はどういう対応がベストだったんでしょうかねぇ……スタッフが責任を被って声優を逃がす? あるいは無視を決め込む?
まぁ、某声優が100%ドヤコンガであるという証拠は出ていません。かなりあやしいですけどね。スタッフなど、声優の身近な人物がドヤコンガである可能性もゼロではないです。
いずれにせよ、声優本人あるいは非常に近い人物が、他の女性声優に対して「整形」だの「売れてない」だのと目を覆いたくなるような暴言を書き込んでいたことは、ほぼ確定みたいです。
「事実は小説よりも奇なり」ってやつですね。やっぱドロドロしてんだなぁ、声優業界って……。
確定的な証拠がないとはいえ、某声優のイメージの悪化は避けられません。さらに、声優が不祥事を起こすと演じたキャラのイメージにも悪影響が及びます。
チ◯ちゃんとか、さ◯ら姉貴のイメージが悪くなるからやめてくれよ……。
(この二人のイメージはすでにJ民や淫夢厨によって汚されてるかもしれんが)
この声優が演じたキャラのグッズを見るたびに「ドヤコンガ」というワードと暴言が頭に浮かぶので迷惑しています。
過去にはラノベ作家でも似たような事件がありました。10年以上前(2013年8月)の出来事ですが、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の有料サービス「2ちゃんねるビューア」利用者の個人情報が、不正アクセスにより流出。
クレジットカードで料金を払っていた利用者の書き込みと個人情報が紐づけられてしまいました。
その結果、あるラノベ作家が掲示板上で同業者を誹謗中傷していたことが発覚。謝罪に追い込まれました。出版社や漫画家への暴言書き込みや自身の称賛も行っていたみたいですね。
ところで、なろう出身のラノベ作家にも、同業者を誹謗中傷していた疑惑のある人物がいましたよね? 5ちゃんに大量の罵詈雑言を書き込んでいたやべーやつです。本人であるという確定的な証拠はないので、ただの信者だったのかもしれませんけど……。
雑談コーナーもこれで終わりにします。最後まで読んでいただきありがとうございました。