【書籍版】『回復術士のやり直し』第1巻の感想&設定について

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2021年冬にアニメ化された『回復術士のやり直し』の原作小説書籍版、第1巻の感想です。なお、小説には「~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~」というサブタイトルが付きます。

著者は、なろう界隈では有名な自称キツネ作家、月夜涙先生。出身地が群馬なのか和歌山なのかはっきりしない人で、キツネは飼っていないけど、ネコ(ロシアンブルーの雄)を飼っているようです。

『回復術士』は元々「小説家になろう」連載作品ですが、Web版は削除済み(色々疑惑がありますが今回は触れません)。書籍版は角川スニーカー文庫から出ています。700円程度なので、なろう書籍の中では買いやすい部類。A6判、すなわち従来のラノベサイズです。

ちなみに、アニメ化されたなろう作品『異世界はスマートフォンとともに。』や『俺だけ入れる隠しダンジョン』の原作書籍は、大きなサイズの本(四六判)で1300円程度します。この価格帯になると新規は手を出しづらいですね。お試しで買うには高すぎる。既存ファンがお布施で買う感じかな?

『回復術士』に話を戻します。漫画版は無料で読める序盤をちょろっと読んだだけですが、アニメ版は全話視聴しています。

アニメで語られてなかった設定が分かるかな~と期待して小説を手に取りました。

なお今回の感想はアニメを見ている前提で書きます。あらすじは省略するので、未視聴で内容が気になる方はアニメ版のまとめ記事を先に読んでいただけると幸いです。

アニメ『回復術士のやり直し』1期振り返り感想&不満点まとめ

設定多すぎ問題

確かに原作にはアニメで語られていない設定が沢山ありました。…というより設定が多すぎて消化不良になるレベルです。

存在意義が分からない大量の設定の羅列を目の当たりにして、ただならぬ執念のようなものを感じました。月夜先生は設定を考えるのが好きな人なのかな?

同作者が書いた作品は他に『チート魔術で運命をねじ伏せる』の漫画版しか読んでいないのですが、そちらにも複雑な設定がありました。

問題はその複雑な設定が物語の面白さに直結しておらず、むしろ説明のために物語のテンポを悪くしている所だと思います。これは、『回復術士』『チート魔術』両方に言えること。設定の説明はいいからさっさと話を進めてほしいと何度も思いました。

一読者としては、あってもなくても物語の展開に影響しない設定は省略してくれても構いません。設定じゃなくて物語を読みたいんですよね。細々とした設定に関しては作品外、それこそツイッターなどでつぶやいてくれるだけで十分です。

それにしてもアニメ放送中の原作者ツイートは面白かった。アニメ本編を見ただけでは分からない裏設定を解説してくれました。

ただ、中には本編と矛盾している裏設定もあり、「原作者は、原作を読んでないんじゃないか?」などと突っ込まれていたのは笑えましたよ。複数の作品を同時進行で書いているみたいですし、昔に書いた内容はすっかり忘れているのかもしれません。

アニメ版における省略の是非

アニメ版では原作にあった膨大な設定を上手に取捨選択し、必要最低限の説明に留めていました。これは大いに評価できます。設定をいちいち説明していたらテンポが凄まじく悪くなってしまう。

ただし、「痛覚耐性」の説明までカットしたのは悪手だったかも。

主人公はヒールを使うと副作用でメチャクチャ苦しむことが描かれていたのに、フレア王女を痛めつける辺りから何故か一切苦しまなくなってるんですよね…。涼しい顔でヒールしている主人公を見て不思議に思った人も多いでしょう。

小説にはその説明がありました。薬物耐性を得て正気を取り戻した時には既に痛覚耐性を獲得していたようです(p.105)。アニメで言うと2話のAパート時点ですね。

痛覚耐性の存在を視聴者に伝えられていれば、ご都合主義感が多少は緩和されたと思います。

とはいえ、物語の根本的な部分で突っ込みどころが発生しているので、表面的な整合性に配慮しても支離滅裂感はなくならないかもしれません。「そもそも時間を戻してやり直す必要がない」という部分は擁護しきれませんね。

視聴者を納得させられるようなやり直しの理由が欲しいところですが、そこを改変したら別作品になってしまうので、そのままアニメ化するしかなかったのでしょう。

ゲーム設定の謎

アニメ化の際、ゲーム(RPG)的要素を大幅にカットしたのも良改変だと思います。原作には、ゲーム的な設定が山のように存在していました。

なろうではおなじみ、「ステータスオープン」はもちろんあります。相手のステータスを見られる【翡翠眼】を手に入れてからは、事あるごとにステータスを表示。

ページの半分くらいを使い、「種族」「名前」「クラス」「レベル」「ステータスMP物理攻撃物理防御魔力攻撃魔力抵抗速度)」「技能」「スキル」を見せてくれます。

さらに、鑑定紙では見られない「レベル上限」や「素質値」も表示。細々とした情報を読者に伝えてきます。

作者には申し訳ないのですが、個人的にはどうでもいい情報でした。何のために表示しているのか謎。キャラ毎に細かく数値が設定されているのも不思議です。

スキルの内容もやたらと詳しく書かれていました。例えば、「MP回復率向上Lv2:回復術士スキル、MP回復率に二割の上昇補正」とか…。こういうのがキャラ毎にいくつもあります。

実際にゲームを作る予定でもあるんですかね?物語上必要性が薄そうなゲーム設定をここまで作り込んでいるのは不可解です。

アニメにも一応【翡翠眼】の描写はありましたが、視聴者に具体的な数値が分からないよう、ぼかしてあったのがGOOD。ゲームみたいに見えると興ざめで物語に入り込めなくなるので、有耶無耶にしたのは良い判断だと思います。

なお、ゲーム的な設定は他にも数多く存在します。「【改良(ヒール)】で素質値の配分をいじることが可能」、「【模倣(ヒール)】で定着させられる技能の数は五つまで」、「勇者の経験値二倍はパーティ内に重ねがけが可能」、「魔物の肉を食べると素質値が上昇する」などなど…。

無意味だと思えるほど細かい設定が存在するのでちょっと怖くなりました。文字数稼ぎのためステータスを書く作家もいると聞きますが、本作の場合は手が込みすぎているように思える。

ゲームみたいな異世界はよくあるけど、ここまでステータス設定が細かいのも珍しいのでは?『俺だけ入れる隠しダンジョン』にも、【鑑定眼】という名のステータスオープンはありましたが、もっとシンプルな記述でしたよ。

気になった点

設定が複雑な件には言及したので、それ以外の気になった点について書きます。なお、アニメ版の感想で突っ込んだところは省略。

便利な薬物

ヒールがなんでもありのチート能力にしか見えない点については、アニメ版の感想で何度も言及しましたし、そういう初期設定だから気にしても仕方ないと自分を納得させました。

しかし、薬漬けにされ理性を失い自分の名前も分からない状態の主人公が、対象の全てを知らないと使えないヒールを使えているのはやっぱり謎。アヘアヘ状態にしたらヒールも使えなくなって当然の気がします。なんというか、便利な薬があったものですね…。

字面が似すぎ

【剣】の勇者ブレイドと【砲】の勇者ブレット。二人の名前の字面が似ていて読みにくいです。映像がメインのアニメでは気にならなかったけど、文字媒体では大問題のような…。

ブレイド
ブレット

並べてみると類似性がよく分かります。この二人は同じ場面に登場することが多いので混同してしまいますよ。

書籍化の際、「ケアル」は「ケヤル」に直しているのに、ブレイドとブレットはそのままなんですね。FFの権利には配慮しているけど、読みやすさには配慮していないのかな?

剣や砲にまつわる名前なら他にも色々候補があると思います。あえて字面が似た名前にした理由が知りたい。

堕天使とは?

6ページに「堕天使のような翼」「堕天使型の魔物」という表現がありますが、どういったイメージで「堕天使」という言葉を使っているのか分かりません。

堕天使というのは単一の存在ではなく、神の怒りを買って天界を追放された天使や、自ら堕落し神から離反した天使の総称。いっぱいいます。中でも、ルシファー、ベルゼブブ、アザゼルは有名ですね。

作者はどの堕天使を念頭に置いて書いているんでしょうか…。個人的には、堕天使と書かれただけでは姿を想像するのが困難。他の読者は想像できてるのかな?

「堕天使」で画像検索したらカードゲーム関連の画像がいっぱい出ました。…とりあえず羽が黒くて悪魔っぽい姿を想像しとけばいいんかね?

「悪魔のような」という表現はよく目にしますが、「堕天使のような」という表現は珍しく、少々違和感がありました。あえてそのような表現を使うからには何らかの意図があるのでしょうけど、筆者には分かりません。中二っぽくしたかったのかな?

アンナさんの口調

アンナさんが主人公を呼ぶ際、「ケヤルくん」(p.27, 48)だったり、呼び捨ての「ケヤル」(p.28)だったりと一定してないですね。アニメ版では「ケヤル」で統一されていました。

現代知識

主人公は異世界転生した現代人ではなく、現地の村人です。それなのになぜか現代知識を持っているという不思議。

本作の舞台は、剣と魔法の中世風ファンタジー世界なのに、主人公は「プラズマ」「抗体」「アイマー器官」など、近現代に発見された概念を知っています。

さらには「燃費」という言葉まで使うんですよね(p.123)。これって少なくとも燃料で走る自動車が存在しないと成立しえない概念では?この世界の人たちは馬車に乗ってましたよね…。

「半分ヤクザみたいな冒険者」という表現もありました(p.198)。記憶がないだけで日本からの転生者なのかな?

まあ、現代人の読者に伝わりやすいよう、あえて作中の時代に合わない言葉で書いてくれたのでしょうね。目くじらを立てるようなことではないかな。

ただ、抗体については物語に深く関係するのでスルーできないですね。抗体を知らなかったら奇病の特効薬も作れなかった。

誤字脱字?

「変化させることができなら、もとの姿ではなく」(p.12)→「できるなら」。

無意識化でもきっちりと」(p.105)→「無意識下」なのでは?

書籍化時のチェック漏れでしょうかね?なお、参照したのは初版です。その後修正されたかもしれません。

偽名のこと

主人公は、フレアの記憶を消した後「フレイア」という名前を付けました。「元の名前に近づけたのは無意識下の違和感を減らすため」(p.163)だそうです。これはまあ納得できる。

しかし、その理屈が通るなら、自分の名前を「ケヤルガ」にしたのはまずかったと思います。無意識下で「汚らしい野良犬」ケヤルを連想するかもしれないですよ。

記憶を消しただけで中身はフレア王女なわけですし…。記憶が戻るとマズいなら、全然関係のない名前にしておけばよかったのに。

あと、無意識うんぬん以前に、元の名前と似ていたら王国の追手に疑われやすいのでは?

まあ、主人公が馬鹿だから考えが及ばなかっただけだと解釈すれば矛盾はないか…。あまり頭の良い人物として描かれてないですもんね。わざわざ時間を巻き戻して、再度虐待を受けに行った時点で思考がおかしかった。薬の影響で脳の機能が壊れてしまったのでしょう。気の毒に…。

……などと書きましたが、ぶっちゃけメタ的に考えるとFFの回復魔法から取っただけなので深い意味はないと思います。

謎のうぬぼれ

薬の販売がうまくいったのは「日頃の行いがいいからだろう」(p.225)とうぬぼれる主人公。

アニメにもちょこちょこ自画自賛セリフがあったけど、ギャグとして書いてるんですかね?自分を客観視できない狂った主人公を笑う所なの?

意図が分からないので、どう反応すればいいのやら…。

ちなみに、セツナが未来(肉棒)を掴むシーン(p.267)はギャグではなくシリアスとして書いたそうです。

あとがきの謎

あとがきには、「爽快なストーリー」「明るく楽しい復讐がコンセプト」などと書かれていますが、作者は本気でそう思ってるんですかね?

ネット上のレビューを見る限りでは、「胸糞」だと思っている読者も少なくない感じ。「爽快」「明るく楽しい」と感じる人はどれくらいいるのでしょうか?

『回復術士』のことが好きな人も、別に明るく楽しい作品だと思って読んでるわけじゃないでしょ?むしろ陰湿でイカれた感じが好きなんじゃないの?あとはリョナや被虐描写が好きとか。

作者の認識と読者が受ける印象が乖離しているような気がします。

原作を読んで分かったこと

アニメを見ただけでは分からなかった設定などを書きます。

湖は遠かった

アニメ1話では半日くらいで到着したように見えた精霊の湖ですが、原作では何日もかけてやっとのことでたどり着いています(p.32)。結構遠かったのね。

勇者

勇者は同時に10人しか存在できないという設定。今いる勇者が死んだら別の勇者が生まれるらしい(p.57)。ケヤルはぎりぎり存在価値が認められたので生かされていたけど、一歩間違えば殺されるところだったようです。

メイド

アニメ1話に出た夜這いのメイドは強い。戦うメイドで精鋭騎士にも匹敵(p.73)。

【剣聖】クレハ・クライレットについて

【剣聖】というのは称号ではなくクラスだそうです。ここにもゲーム要素(p.77)。

また、腕を失い剣で戦えなくなったクレハは、「強い子を残すためだけに生きることを強制される」(p.82)ところだったらしい。

しかも、幼少期から虐待としか思えない訓練を受けていたようです(p.85)。

実は、かなり気の毒な境遇の子だったのね…。

アニメ5話を見た際の印象は「相手を確認せず斬りかかるイカれた脳筋女」。しかも簡単に懐柔され、王国を裏切って主人公のハーレムに加わります。頭が弱いようにしか見えず、全然魅力を感じませんでした。

しかし原作を読んで見方が変わりました。幼い頃から王国に運命を翻弄され、どこか壊れちゃった人という設定だったとは…。頭が弱いのも、幼少期から過酷な訓練ばかりさせられてきた結果と思えば納得です。

ミスに気づく主人公

主人公はフレア王女を襲った際、ヒールで自分の姿に変えた近衛騎士隊長レナードを始末し忘れていました。それが原因で主人公が犯人だと発覚し、後に故郷の村が滅ぼされることになります。

アニメ版では村が滅ぼされるまでミスに気づいていなかったように描かれていましたが、原作ではすぐに気づいています。

まず、「なにか、見落としている気がする」(p.158)という描写があり、「俺の姿に【改良(ヒール)】した近衛騎士隊長を殺し忘れた」(p.160)とミスに気づきます。

一応、喉は潰し、ペンを持てない体にしたようですが、鑑定紙でステータスを見られるとバレるようです。また、エリクサーを使えば喉は治るという設定みたい。

ミスに気づいたのに村の防衛を考えなかったということは、やっぱりアンナさん含め村人は主人公に見殺しにされたと解釈すべきでしょう。

「王家は間違いなく、彼(※レナード)の血縁を皆殺しにするだろう」(p.157)と、主人公は考えていたので、村が襲われることも容易に想像できたはず。

アンチがこじつけで文句を言ってるわけではないんですね。原作に書かれているのだから擁護できません。主人公は本当にどうしようもないクズ野郎ですね!

ヒールでは洗脳できない

これはアニメを見て以来ずっと気になっていたことです。原作によると、ヒールにできるのは記憶を消すことだけ。正確には、「記憶の扉を開くカギをなくしている」(p.161)。

記憶を消した後、催眠魔術と麻薬成分を使い洗脳したようです。言われてみればアニメ2話で謎のエフェクトが出た後、フレイアがレ○プ目になってましたね。あれが催眠魔術だったのかな?

なお、クレハやノルンをどうやって寝返らせたかは1巻時点で不明。続きを読むのが少し楽しみ。クレハに関しては、洗脳したのか、単にチョロインだったのか気になって仕方がないです。

自己再生

主人公が一周目でボコボコに殴られても死ななかったのは自動で回復できるから。「高レベルの回復術士が持つ回復力強化」によって、すごい速度で回復するようです(p.182)。

これもアニメで少々疑問だったところですね。「あんなに痛めつけられても死なないなんて、体が頑丈すぎだろ!」と思ってました。

『チート魔術』と同じ世界

魔物の肉を食べる場面(p.201)に、瘴気は毒だから普通には食べられないと書かれており、既視感があると思ったら、同作者の『チート魔術で運命をねじ伏せる』ネタでした。

「大昔の英雄ソージの書いた論文」に魔物肉の食べ方が記されていたそうです。このソージというのは『チート魔術』の主人公の名前。つまり、『チート魔術』と『回復術士』は時代こそ違うものの、同一世界の話だったという…。

『チート魔術』のほうはもっと平和な感じだったので意外です。

原作者のツイート(現在は削除済み)によれば、【翡翠眼】が出る作品は同一世界の話で、出ない作品は独立しているらしい。

ソージは現代日本から召喚された人間。ケヤルガが持っていた現代知識は、もしかするとソージによってこちらの世界に伝えられたものなのかもしれません。これに関しては直接的な言及がないので断定はできませんが…。

さらにソージは【剣聖】の祖なんですって(p.204)。

キャラの年齢(ロリ?)

アニメ版では色々マズいのでぼかされていたキャラの年齢ですが、原作にはしっかり書かれています。

ケヤル、フレアは14歳になったばかり(p.227)。セツナは12、13のように見えるそうです(p.247)。

流石に若すぎない!?イメージと違いすぎる!

14って言ったら現代の中学生ですよ。フレアの発育良すぎでしょ…。挿絵との整合性が…。

あと、14歳なのに普通に酒を飲んでます(p.308)。現代日本の話じゃないから問題はないのですが…。

そもそも性表現がある作品ですし、年齢は書かないか18歳以上ってことにしておいたほうがよかったのでは?そうすれば絵との整合性も取れますし…。書籍化の際、考慮しなかったんでしょうか?

海外の出版社から刊行を拒否された(↓)のはもしかすると、ストレートに年齢を書いたせいかも…。

この作品、性表現そのものは大して過激じゃないんですよね実際。

だけど向こうは児ポ・小児性愛にメチャクチャ厳しいので、「うわーロリコンだ却下!」ってなったのかもしれませんよ…完全に憶測ですけど。

なお、作者は次のように述べています。

ところで最近、国会議員が「14歳と性交して捕まるのはおかしい」みたいなことを言って燃えてましたね…。

過去のツイートを漁ってみましたが、月夜先生にはそっちの性癖があるのかもしれません。いちいち否定しているのが逆に怪しい。

ツイートの引用はこの辺にしておきますね。

【剣】の勇者は外国人

氷狼族の村を守る戦い(アニメ4話)の時点で、【剣】の勇者ブレイドはまだジオラル王国に来ていないという設定(p.286)。なんと他国の冒険者だったようですよ。

だからケヤルガは【剣】の勇者になりすまして王国兵と戦ったんですね。偽物が現れたことを知ったら、本物が王国に来るのが早まるという計算があったみたい。

アニメを見た時は、「なんで【剣】の勇者のフリをしてるんだよ!見た目もぜんぜん違うし騙せるわけないだろ!!」と思ったけど、設定を知ったら納得できました。

王国兵が簡単に騙されていたのは、本物の【剣】の勇者を知らなかったからなんですね。

ただ、この設定があるせいで別の突っ込みをポイントが発生。二周目の主人公は【剣】の勇者に会っていないことが確定してしまいました。つまり主人公は、自分に危害を加えていない相手に復讐を企てているということになります。本末転倒ですね。

【剣】の勇者の視点に立つと、見ず知らずの相手が突然「復讐」の名目で襲ってくるという理不尽な状況です。やっぱケヤルガは当たり屋なのか…。

必然性のない「やり直し」設定が様々な矛盾を生じさせているような気がします。

良かった点

最後に良かった点について書きます。

情景描写がある

設定やストーリーを脇に置くと、文章そのものは意外に悪くなかったです。情景描写がしっかりなされているように感じました。

描写が極めて淡白だった『俺だけ入れる隠しダンジョン』を読んだ直後だったので評価が甘めになっているかもしれませんが、少なくとも、なろう外の一般的なラノベに近い水準の描写はなされていると思います。

文章を読んで、ある程度風景を想像することができました。「イメージは読者に丸投げ」というスタイルではなかったです。

あと、盛り上げる演出はうまいかも。フレアを襲うまでの一連の流れは臨場感があってよかったです。読んでいて絵が浮かぶ描写でした。

背を向けたフレアが寒気を感じるところ(p.103)もなかなか。原作を読んだアニメスタッフが秀逸な描写だと感じたかどうかは知りませんが、その場面は忠実に映像化されていました。

イラストが秀逸

しおこんぶ先生による表紙と挿絵が素晴らしいですね。えろす~。

文章を書いた月夜先生の評判なんてちっとも知らずに、絵だけ見て買っちゃう青少年も多いでしょう。

余談ですが、筆者が何年か前に表紙買いしたエロマンガ雑誌のイラストも、しおこんぶ先生が描いたものでした。

最近気がつきました…。ドSなサンタさんの表紙です。


Girls forM vol.16

いつの間にか休刊になってたんですよねこの雑誌…。マゾ向けと言いつつ特化できていなかったからかな?「ドMを謳っているのに実際にはソフトMにすらなっていない漫画がある」という不満レビューを何度も目にしました。

ドMシチュがそこまで好きじゃない漫画家を集めて描いてもらっても、普通のエロ漫画にしかならないんでしょうかね?

確かに作者のこだわりが滲み出してこそエロくなるというのはあると思います。やはりニッチな性的嗜好を持つ者は同人に頼るしかないのか…。

おわりに

アニメ版と比較しながら読むのは結構楽しかったです。

ただ、先に小説を読んでいたら受ける印象が違っていたかもしれません。アニメを見ていたおかげで話の流れや重要な設定は頭に入っているし、情景も想像しやすくなっています。

予備知識なしで小説を読んで、すんなり内容を理解できるかどうかは不明。単体で楽しめるかどうかも判断に困りますね。

もしアニメ版を見ていないのなら先に見たほうがいいかも。『俺だけ入れる隠しダンジョン』のように漫画版の展開を元にしたアニメもありますが、『回復術士』は小説がベースです。

ヌルヌル作画ではありませんが、凝った演出や構図のおかげで見応えのあるアニメに仕上がっています。シナリオも冗長になりそうな要素をカットしてテンポを良くしているので見やすいです(ただし、中盤以降はダレる…。原作由来かもしれないので2巻、3巻を読んで確認したい)。

なお、小説はカクヨムで第九話まで無料公開されています。本を買おうか悩んでいる方はそれを読んで判断するのがいいと思います。

 

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