2019年春アニメ『賢者の孫』」の感想です。
この作品は原作が「小説家になろう」で連載された小説で、純粋な「なろう系」作品です。『百錬の覇王と聖約の戦乙女』のような「なろうっぽい作品」とは違います。
コミカライズ版が面白い(意味深)らしく、ネットでも度々話題になっていたのでタイトルを知ってました。
それがアニメ化されるということで、色んな意味で面白そうなので視聴することにしました。
※感想は放送された3ヶ月の間、最新話視聴後に加筆。まとめて見て一度に書いたわけではありません。
※アンチ寄りの批判的意見が多いのでファンの方はご注意ください。ネタバレ注意。
第1話「世間知らず、王都に立つ」
サラリーマンの主人公がオフィスで……というよくある始まり方をします。現代を生きる労働者の哀しみが伝わってきますね、描写はありがちですけど。
主人公は人生に絶望している風ではないものの、特にやりたいこともなく疲れ果てた様子。彼は仕事帰りに信号を見落とし、ふら~っと道に出てしまい轢死します。
轢かれた後の描写が意外に生々しかったです。
異世界に転生した主人公は、元の姿ではなく赤ん坊になって人生をやり直すことに。ここはちょっと見慣れない感じ。
自分はあまりなろう系異世界転生ものに詳しくないのですが、今まで見た作品では若返ることはあっても赤ん坊になるのはなかったですね。
子供パート
前半、主人公シンの子供時代パートはなろう臭が薄くて普通に見られました。
やたらハイスペックなのは気になったけど気持ち悪さはないです。普通にいい子に見えましたねぇ。
絵も悪くない。アニメーション制作はSILVER LINK.(『のんのんびより』とかを作ったところ)なので、絵が崩れる心配は少なそうです。
あと、『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』(通称デスマ)のアニメにも関わってますね。
成人パート
前半は普通に見られたものの、後半シンが成人してからの話はちょっとアレでした……。
「常識教えるの忘れとった」という有名なセリフが出ましたよ。これはシンが買い物をしたことがなくお金の使い方が分からないと発言し、周りの大人が呆れた際に爺さんが放ったセリフです。
爺さんは魔法ばかり教えて常識を教えていなかったという意味のようですが、常識って教えると言うより身につくものでは? なんか変なセリフですよ。
そもそも転生者設定なのに、お金の使い方が分からないというのもおかしい。なろう系のガバさが凝縮されたようなセリフかも。
あとは、主人公が涼しい顔してメチャクチャ強力な魔法を発射しみんなを驚かせたり、街でゴロツキに襲われてる女の子を助けたりと、ありがちな内容。
でもスマホ太郎みたいな寒さはあまりないですね。絵は崩れてないし、演出も悪くないから見れる。
主人公は微妙ですが、爺さん婆さんがいいキャラしてますね。なんか可愛げがある。
酷さが足りん
期待してたほど酷くなかったですねぇ。第1話を見る限りでは、スマホ太郎こと『異世界はスマートフォンとともに。』の後継者にはなれないような気がします。
糞アニメポイントは低い。
『デスマ』みたいに、めちゃ面白いわけではないけどつまらなくもないという微妙なラインの作品になりそう。
でもまだ1話。これからどうなるか目が離せないですね。クソアニメ方向に行くのかどうなのか気になります。せっかくならもっと痛々しいのが見たい。
第2話「常識破りの新入生」
魔法学院の入学試験前後の話でした。
今回から本領発揮って感じです。スマホ太郎的な意味で……。
前回助けた女の子たちがさらっと主人公ageをします。シン君は体術が凄いのに魔法学院を受けるの~!? びっくり~!! みたいな感じで。
シンが立ち去った後も格好良かったなどと褒めまくり…。やっぱこうなるのね。
その後、シンは噛ませっぽいガラの悪い金髪男(カート)に絡まれるのですが、体術を使い一発でやっつけてしまいます。
罵られても涼しい顔であしらう所とか最高に寒いですねぇ。これぞなろう系、というより中二病系か…?
抑えて撃ったの?
魔法の試験が始まります。シンは他の学生が魔法を使う所を見て、詠唱が恥ずかしいとか、威力がショボいのにドヤ顔してるとか、中二病発表会だのと心の中で馬鹿にします。
そして本人の番が回ってくると詠唱無しで超強力魔法を発射。大爆発が起こりギャラリーは驚愕します。
「相当抑えて撃ちましたけど」なんてヘラヘラした顔で言ってますけど、ほんとにそう思ってんのかお前? だとしたら頭いかれてる。
客観的に見ると一番中二病なのはシンです。存在自体が痛々しいですねシンくんは。見てるこっちが恥ずかしくなる。こういうのをカッコイイと思えるメンタリティが中二病なんでしょうねぇ。
なろう系っておっさんが現実逃避のために読んでると言われてますけど、このシーンに関してはリアル中学生向けに見えますね。これをネタとしてではなくガチで楽しめてるおっさんってやべぇ。精神年齢は中二のままだ。
頭のおかしい人になった理由
作中のシンは、本当に力を抑えて撃ったのでしょう。それでも威力が強すぎたと。すなわち彼は、自身の能力を客観視出来ない、頭のおかしい人物ってことになります。
ただメタ的に見ると、作者はギャラリーが驚き彼を称賛するのが分かった上で、彼に過剰な威力の魔法を使わせてるんですよねぇ。
作品内の人物であるシンは本当に無自覚でやっているのだけど、作者は主人公ageという目的のため自覚的に強すぎる魔法を撃たせている。
その構図が見えてしまうから寒気がするんですよ。
作者は読者が喜ぶような展開を書きがち。特に小説家になろうでは、読者が望まない展開を書くと感想欄でメチャクチャに叩かれるらしい。結果、ファンを増やしたい作者は読者の意見に迎合することになります。
自分をシンに重ねることで優越感に浸りたい、マウントを取りたい、俺TUEEEEしたい読者が数多く存在するから、こんな主人公の頭がおかしいとしか思えない展開を書いたんでしょうね。
なろう系転生ものを見ると、現代の闇が垣間見えますよ。そこまでして自尊心を満たさなければならないほど追い詰められているのか? 本当に恐ろしい。
現に、最強主人公に自己を投影し悦に入るための作品がいくつも書籍化、アニメ化されてるわけですから、そういうものに需要があり、支持者が大勢いるってことなんでしょうね。
心に闇を抱えた人がごまんと存在しているということです。一億総メンヘラ時代か。
アンチは少数派かも
実はなろう系をネタにして馬鹿にしている人たちのほうが少数派、ノイジーマイノリティでしかないおそれもあります。
なろう系を茶化したまとめ記事のコメント欄や、なろう作品のアマゾンレビューには、なろう系を擁護するコメントが大量に書き込まれてるんですよねぇ。
彼らは、「なろう系の良さがわからないやつは遅れてる」とか、「昔は馬鹿にされていた大衆小説や漫画、ラノベというジャンルもいまやメジャーになった、なろう系もそうなる」とか言ってます。
彼らの言うこともあながち間違ってないのかも……? ただ、どれだけメジャーになっても、なろうはなろうでしかない。正直言って程度の高い娯楽だとは思えないですね。
ヒロイン
水色髪の子(シシリー)の制服の付与魔法を書き換えるくだりの説教シーンですが、意味がよく分からんかったです。どゆこと? 原作にあった描写がカットされてるんですかね?
婆さんに、「シンは本気でお前を守ろうとしているけど、それを受け入れる資格があるのか」と問いただされた時、シシリーは「私はシンくんの優しさに付け込みました」と言って泣いていたけど、付け込んでる場面ありましたっけ?
なんか一方的に説教され泣かされてて気の毒なんですよね。姑のいびりを見ているみたいで辛い。主人公のシンには激甘の一方で、他のキャラにはやけに厳しい世界ですね。
そもそもシンに書き換え頼んでましたっけこの子? 妙にいい話みたいになってましたが何が起こってたんでしょうね? イミフでした。
あとシシリーって、男にとってヒジョーに都合のいい女ですよね。胸の大きい美少女で、すぐ惚れるし、大人しくて気が弱そうだし、主人公に絶対逆らわなさそう。
モテない男の夢と理想が詰まったようなヒロインですが、ジェンダー論関係の人とかに怒られそうな設定ですね。男に都合のいい道具(所有物)として女を描いていると言われても反論できん。
まあ、そういう女性キャラがいるのは本作に限った話ではないですけどね。ネット上に「女性の描き方を規制すべき」と言ってる人がいましたが、「フィクションで男の理想を描くくらい許してくれよ」と筆者は思いました。
本題に戻りますが、シシリーは尖った部分のない可愛らしいだけのヒロインなので、萌えオタ歴が長い人にはあんま人気なさそうな気がします。脇役とかでよくいるやつ。
あと、シンが彼女に「何があっても俺が守るから」って言うところはすごく臭かったです。ファンはこれがカッコイイと思うのかな……。
表裏一体
いちいち絡んでくる噛ませ金髪男(カート=フォン=リッツバーグ)について。
彼は主人公の敵ではあるものの、作者や読者(ファン)の願望が分かりやすい形で乗っているキャラだと思いましたね。
カートくんは、親の権力を使ってマウントを取ろうとか、女を手に入れようとかしています。要するに自分の実力によってではなく、生まれながらの立場や身内の力を笠に着ていい思いをしたい、優越感に浸りたいと考えている。
でも敵なので、そういうやつは痛いよね、うざいよねって描写になっています。作者や読者は、その手のマウント願望が綺麗なものだとは考えていない。
しかし本質的にはシンも彼と同じだと思うんですよね。表面的にはマウントを取りたがるキャラとして描かれてはいないシン。でも、作者や読者のマウントを取りたいという願望が乗っかっているという点では違いがありません。
心の奥底に秘めた黒い願望を隠しつつ、婉曲的にマウントをとって優越感に浸るための存在がシンです。
常識知らずで自分の力に気づいていないというエクスキューズがあるものの、シンは生まれながらに強大な力を持っていますし、彼の保護者は皆から尊敬され英雄視されている賢者です。
シン本人は能力に無自覚でマウントを取るつもりがなかったとしても、彼に自分自身を重ねている読者は、チートな能力や育ての親の威光によってマウントを取ることができるんですよねぇ。
この手の作品の主人公って作品世界に独立して存在しているわけではなく、読者と切り離せない存在だと思います。
噛ませ金髪カートくんとシンとは似た者同士。違うのは欲望を露骨に出しているか、隠しているかという部分だけ。
彼らの対立からは、作者や読者の「他人がチートでイキるのは許せないけど自分がチートでイキるのは大歓迎」といういやらしさが見て取れます。
噛ませキャラに対するヘイトは同族嫌悪以外の何物でもないですね。
第2話総評
今回はくそでしたねぇ。第1話は大したことなかったけど、2話はやばい。それに展開が遅くて眠くなりますねぇ……。再生速度を上げるとちょうどいいスピードになるかもしれません。
スマホ太郎は虚無でしたが、こっちは寒さと臭さが目立ちますね。
第3話「緊急事態発生!」
微妙に作画のクオリティが下がりました。輪郭がふにゃふにゃだったりします。あとあんま動きません。
このアニメ制作会社には期待してたんですがダメでしたね。
(以下、主人公シンのことは主人公と書きます。ネットを見るとシンと呼ぶ人は少ないみたいなので)
またオレ
第3話には有名な「またオレ何かやっちゃいました?」のシーンがありました。絵柄は漫画版準拠ですね。
主人公は10歳の頃、3メートルくらいのクマの魔物の首を落として倒したそうです。ギャラリーは驚いているけど、本人は彼らが何に驚いているかわからないというネタ。
一種のマウンティングですよねこれも。
主人公本人は、自分の力が卓越している事に気づけない異常者なので、マウントを取っているつもりはないのだけど、彼に自己を投影している読者・視聴者は優越感に浸れるという仕組み。
ストレートに俺Tueeeeするのは流石に気恥ずかしいからこういう表現方法になってるんですかねぇ?
なんというかスカした感じが嫌ですね。カッコいいですか、こういうの?
洗脳?
噛ませ金髪のカートくんですが、今回も選民意識がすごい。あからさまに他人を見下します。でもかつての同級生によると昔はそんなことはなかったようです。
実は彼、眼帯の先生(シュトローム)に洗脳されていたみたい。そうだったのかー。性格が荒んでいたのも彼自身のせいではなかったんですね。
その後、洗脳どころか魔人化させられてたことが発覚…おいおい。完全に被害者じゃんこの人!
狂ってしまったカートくんは魔人パワーで主人公たちを襲撃。これが結構手強いんですよねぇ。不意打ちだったというのもあるけど、チートな主人公が火傷を負うくらい強かったです。
主人公はすぐに回復するから意味ないんですけどね。
イキリ
カートに襲われた主人公は同級生達に対して、魔物を狩ったことも無いやつが出しゃばるな、邪魔だ、みたいなことを言い放ちます。
おお…、ここではストレートにマウンティングするんですね。
弱い仲間のことを気遣って避難させた主人公カッケー!って思わせたいのかもしれないですが、上から目線でイキってるようにしか見えませんでしたね。
仲間を逃し、一対一でカートと戦う主人公ですが、足止め程度だと思って使った魔法で大ダメージを与えてしまいます。
またそれかい! これはギャグなんでしょうかね? 全然笑えませんが。
不意打ちでなきゃダメージも受けない主人公は強すぎてずるいですねぇ。完全にワンサイドゲーム。
可哀想なカートくん
哀れなカートくんは剣でクビチョンパされ噴水のように血を出して絶命。
彼は一方的な被害者だと思うんですが……。洗脳され魔人化させられただけなのに、随分と酷い殺され方ですこと…。
一方の主人公のシン君は戦闘後、水色のオ○ホちゃんから怪我がなったか心配してもらえます。兵士たちにも讃えられます。
さっくり倒しただけなのにここまで称賛されるなんて美味しい立場ですねえ。さすがチート系主人公! カートくんとの扱いの差が際立ちます。
魔人が現れたのは歴史上二回目と言われてました。魔人って国を揺るがすほど強力な設定らしいんですけど、こんな簡単に倒していいんですか…?
これからどうやって話を盛り上げるんでしょうかね?
いや、スマホ太郎など先行してアニメ化された作品から推測するに、盛り上がるような展開にはならないんでしょうね。この手の作品って、要するに異世界の日常系なのでしょう。
第3話総評
ツッコミ所が多いものの眠くならず最後まで見られました。不思議。