ある日、寝る前にうとうとしていると「新海誠監督作品を見ろ」という謎のお告げがあった。(頭に浮かんだ)
そこで翌日『言の葉の庭』を見た。
この作品は2013年公開と比較的新しいし上映時間が46分と短い。見やすそう。前に見つけてプライム・ビデオのウォッチリストに入れておいた。(2020年4月18日現在プライム会員は無料で視聴可能。)
ちなみに自分は新海監督のファンでもアンチでも無いけど、大ヒットした『君の名は。』はあまり好きになれなかった。展開が冗長で眠くなってしまった。まだ終わらないのって感じ。ストーリーが薄いように思った。
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新海監督作品が苦手というわけではない。昔見た『雲のむこう、約束の場所』にはすごく心を動かされた。ただ、今見て同じ感想を抱くかどうかは怪しい。若いピュアな心で見ないと楽しめない気がする。
そういうこともあり、『言の葉の庭』はあまり期待せずに見たのだけど結構良かった。ストーリーはベタだけど綺麗にまとまってると思う。見ていて冗長さは感じない。
ただ、ポエム風のモノローグがくさいね、やっぱり。そして青いね。厨ニと言うかなんと言うか……。ちょっと、見てるこっちが恥ずかしくなる。もうやめて、やめてくれよ…ってなる。
それが新海監督の作家性だから仕方ないのでしょうけどね。嫌なら見るなというやつ。
そして話も全体的に思春期男子の妄想じみている。
新海監督はいい大人になっても思春期のピュアな心を忘れていないわけで、それはなかなかすごいことだと思う。捻くれたり、無感情になったりしてツマラン大人になっちゃう場合が多いから。
一部から童貞臭いと言われるのもやむなし。これが無いと新海作品じゃなくなってしまう。
主人公は靴職人を目指す少年でヒロインは20代後半の大人。結構年齢差がある。大人側の目線もちょっと入ってはいるのだけど、やっぱり主人公は少年。少年から見た大人としての描写がメイン。
しかし、大人になってこういうのを書けるのって不思議。ずっと少年の心で生きてるってことなのかね?作者が作中のキャラクターに自分を乗っけるとき、現在の自分ではなく、少年時代の自分を乗せられるのものなのだろうか。
ヒロインは何か重いものを背負っている。職場で何かがあったらしく仕事に行きたくない。それで朝から公園でビールを飲んでる。
少年はそんな彼女の姿を見ることで社会の重さみたいなものを感じ取っているみたい。年上の女性を通して、社会の圧みたいなものを見ている。未体験で得体のしれない大人の世界の圧、漠然とした恐怖みたいなもの。
靴職人になりたいという夢は、大人の社会から見たら甘っちょろいものだと少年は思っているようだ。
なんとなく社会が怖い感じ。純粋に生きることを阻む、大きな圧力としての社会。この感覚は昔見た『雲のむこう』にも入っていたように思う。
やっぱり少年の視点で作られてる感じがする。
さいご。やっぱり映像が素晴らしい。思春期の少年の悩みとか、年上女性との恋愛とかはオマケ。個人的には、新海誠作品最大の魅力は繊細な風景描写、自然描写だと思う。言葉で言い表せない細やかな風情をうまく映像にしてるのがすごいよねえ。
実写みたいに精密でリアルな絵なんだけど、目で見たりカメラで写したりした世界より圧倒的に美しいという。なんか輝いてる。
写真関係の言葉に「記憶色」というのがある。人が見て感じた色、頭の中に残っている色のこと。
それは写真など機械で再現した色とは違っていたりする。後で写真を見たとき、記憶の中の風景と印象が違うことがある。
人間の脳は見たものをそのまま記憶するわけではなく、イメージで記憶している。個々人がそれぞれのフィルターを通し記憶している。
もしかして新海監督には風景が実際にあんな感じに見えてるんじゃないかとも思う。
目が良いというかなんというか。カメラのように記録するんじゃなくて、印象、イメージを映像化できるところが天才的。他の人にも分かる形で印象を絵にできるってすごいわやっぱ。
日常生活でふと出会う美しい瞬間っていうのはあるけど、それを切り取るのは難しい。
自然の美しさ、陽の光や雨、雲の様子を細かく覚えていて絵に落とし込んでる。
新海監督は自然に対する感度が高い気がする。自然豊かな長野で生まれ育ったのが関係してるのかもしれない。
人工物だらけの東京都会だけど、そこにも自然は残っている。地面はコンクリートで固められていても空には雲があるし、陽の光は差す。無機質な人工物でも光の当たり方でいろんな表情を見せてくれる。
その光が作り出す美を写し取っていてなんかいいよね。やっぱり自然の偉大さなみたいなものと、言葉にできない救いみたいなものを感じさせてくれる。世界ってこんなに美しいんだな。世の中捨てたもんじゃないって思うね。
いいものを見ました。ただ欲を言えばストーリーをもう少し頑張って欲しいかな…。
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