『ごちうさ』こと『ご注文はうさぎですか?』原作漫画第7巻の感想。一つ前、第6巻の時点で終わりが近そうな雰囲気だったが、まだ完結はしないようだ。
ただし、チマメ隊とリゼの卒業・進学という大きな節目を迎えることで、物語に大きな区切りがついた。また、一つの章が終わったことを感じさせるような演出がされている。
表紙を含めKoi先生のカラーイラストは本当に綺麗で惚れ惚れする。繊細な色使いが素晴らしい。
※極力ネタバレしないように書いていますが、感想を書く上でどうしても内容を紹介しないといけない部分もあるので一部ネタバレあり。未読の方はご注意ください。
各話のあらすじ、感想
1話目
冒頭はカラーページ、みんなが新年の屋台巡りをする話から始まる。
ガレット・デ・ロワ(王様ゲームみたいなもの。ケーキの中の指輪を当てた人が命令できる)に勝ったチノ。彼女の命令はみんなと外のセカイへ行くこと。みんなは、それは命令じゃなくて提案だと言うけど行くこと自体には賛成してくれた。
チノの「正直まだ実感が湧かないし新しいセカイを知るのはちょっとだけこわいです」というセリフは、これからの展開とも関連してるのかなと思った。
単に「知らない遠くの土地へ遊びに行くのが少々怖い」という意味に留まらず、卒業・進学によって新しい舞台(セカイ)へ進んでいくことへの不安も含まれているのだろう。
2話目
はロゼちゃんが再登場する話。まだ正体に気が付かないチノとココアにリゼはちょっと不満なようだ。
ネタバレになるのでオチは書けないが、状況を理解できず混乱したチノの表情が面白かった。
3話目
とある事情でココアとマヤが大冒険することになる話。この二人だけというのは珍しい組み合わせだと思った。今まであったかな?
似た者同士で相性が良さそうだった。活発で物怖じせず誰とでもすぐ打ち解けられるタイプ。
明るく見えるマヤだけど受験勉強で結構ストレス溜まってたみたい。ココアと冒険して良い息抜きになった模様。何気ない話にも受験や進学が関わってきている。
この回にはファンタジー要素が入っていて超常現象が発生する。後日、二人が遊んだ店があった所に行ってみると店は忽然と姿を消していた。
はじめて店に入った時「なにここ怖い」というセリフを発していたし、尋常じゃない雰囲気だったのだろうな。
前の巻あたりからファンタジー色が強くなり始めた気がする。あの世から霊魂が帰ってくる話もあったし。まあ、うさぎのティッピーにお爺さんの魂が憑依している時点でファンタジーだったのだが。
4話目
千夜が店の宣伝をするため変装(コスプレ)をして街に繰り出す話。
独特な感性を持っている割りには大人しめだった千夜だが、今回は変装のおかげなのか結構大胆で活発に。自分を開放できたようでイキイキしていた。
この子もちょっとずつ変わっていってるんだなと思った。日常系だけど、少しずつ成長していくキャラの描き方が上手いなと。
5話目
みんな出るけどメグとココアがメインの話。
一コマ目の四角い吹き出しに「奈津恵(なつめぐみ)です 家はバレエ教室をやっています」と、ある。読者に正式な名前をアピールしているのかな?
確かにフルネームを意識することは無かった。メグが本名というイメージが強いけど恵だったね。
メグがココアに憧れていたことも明かされる。彼女が憧れているのは「何でも出来る完璧なお姉ちゃんじゃなくて、ココアちゃんみたいな、何でも 楽しい に変えてくれる人」。
大胆な告白を聞いてハッとするココアの表情がイイ。
6話目
シャロがお嬢様高校の舞踏会に行く話。リゼに誘われたが場違いではないかとちょっと気が引けている。
あえて読者(とシャロ)をミスリードするような描き方になっていて、意外な結末に驚かされた。シャロにとってはかなりハッピーなオチだったからよかったね~と。
7話目
動画を撮る話。チマメ隊は卒業が近いから思い出を残しておきたいと思っている。
やっぱり時間が流れてるのだなぁと。キャラ同士が昔と変わったねと言い合う場面もあってサザエさん時空でないことを強く感じさせられた。
高校生組も登場するけど、この子達も前とはちょっとノリが変わっていると言うか、真面目な感じだった子がコミカルな言動をするようになっていて面白い。
アニメ2期エンディングからの逆輸入ネタもある。
チノと、マヤメグは別々の高校に進学する。みんな一緒の楽しい日常が永遠には続かないという切なさを感じる回でもあった。
みんな次のステージへ進んでいく。でも登場人物はそのことを否定的には捉えていない。仲間と出会えた幸せに感謝し前向きに生きていてなんかいいなと思った。
この作品はキャラの可愛さばかり注目されがちだけど、こういう前向きな描写も素敵。読むと癒やされるし元気ももらえる。
8話目
高校生組がバレンタインに向けチョコを作る話。
張り切るリゼの様子はまるでココア。この子も大分ココアの影響を受けたなと。ツッコミ役だったのがボケ役までやれるようになってる。
卒業進学の話が出始めた頃からキャラクターの成長や変化を思わせる描写が多くなったね。
みんなから「なんか家庭科の先生みたーい」と言われるリゼだが、本人も先生になりたいことが前巻(6巻)で明かされた。確かに向いてそうだな。
9話目
チノちゃん受験日の話。やっぱりこういう話も入るのね。イベントをさらっと流すのではなく、しっかり描く。やっぱり1巻当時と比べると漫画の方向性が変わっている気がする。
チノ本人より周りがそわそわして落ち着かない。モカ姉に電話するココア。今の高校を選んだ理由は、街にわくわくしたからだよねと言われてちょっとムッとする。
ココア「それだけじゃないよ」
モカ「それだけじゃないの!?」
この続きがすごく良かったので本編のコマを引用する。
何故か目頭が熱くなった。なんかいい。
話が進むにつれ日常にもドラマチックな場面が加わり、以前より深みのある作品になったように思う。
ただこういう場面は胸にしみるのと同時にクライマックスが近いことも感じさせるんだよな。
アニメの3期と新作OVAが決まったばかりだし商業的に打ち切る理由はない。まだまだ続くのだろう。でも終わらせるとしたら卒業・進学は格好のタイミングだと思うし、終わりを暗示するような描写が妙に多い。
10話目
試験の合格通知が届くのをドキドキしながら待つ話。顔では冷静を装っているチノちゃんだけど、内心は不安なようで、珍しくうろたえている。
それはマヤとメグも同じだった。
結果が届いた場面は2ページ丸々サイレント漫画。こういう演出は今まで無かったから強く印象に残った。
読んでいるこっちまでちょっとドキドキする。読んで癒やされる内容ではなかったけど、チマメ隊の将来に関わる大事な回。たまにはこういうのもいいなと思った。
11話目
受験も終わり、チノちゃんが卒業旅行の行き先を考える話。1話目の「外のセカイに行ってみたい」の伏線回収。
行き先候補の街を伝えると、「よりによって!?」とショックを受けたような顔をするシャロちゃん。どうもその街はシャロ両親の出稼ぎ先らしい。
シャロちゃん両親と何かあったのだろうか。ちょっと嫌がっている感じだった。
実は故人なのではないか等、様々な憶測を呼んだシャロの両親だがご存命のようだ。でも高校生の娘を残して両親共々出稼ぎってなんか不穏だよなぁ。
連れていかなかったのには深い理由があるのだろうね。本当は一緒に暮らせるのだけど仲が悪いから離れて住んでいるなんてことはないよな。近々真相が明かされそうなので期待。
12話目
チマメ隊とリゼの卒業式が終わった後の話。帽子投げのシーンがある。表紙の絵はやっぱり卒業式後の場面だったのね。
別れの話だけどあまり湿っぽくなかった。シリアスさの塩梅が良い。
13話目
みんなが卒業旅行に出かける日の話。この巻の最終話。
ティッピーのセリフがかなり意味深だった。チノの「おじいちゃんも一緒に(旅行へ)行きましょう!」への返答。漫画のコマを引用する。
今回の旅には付いて行かないというのが表の意味だろうけど、別の意味も含まれてる気がして仕方ない。
1話目でチノが言った「外のセカイ」や「新しいセカイ」は、「行ったことがない他の街」という意味だけでなく、「まだ経験したことがないこと、これから経験すること」という意味を含んでいるように思える。
それと同じくティッピーのセリフにも二重の意味を持たせているように思う。
ティッピー(祖父)の役目は終わった?
「これはチノ達の旅じゃ」というのは、「この先の人生はチノ達のものであり、老いて一度は死んだ自分(チノの祖父)のものではない。そこにはもう自分の居場所はないのだ。」というふうにも解釈できる。深読み、考え過ぎかもしれないけど。
チノの祖父は親代わりとしてチノを支えるため、うさぎの体を借り現世に残っていた。だが彼の役目はそろそろ終わろうとしている。
チノはかけがえのない仲間を得て人間的に大きく成長した。もう彼の助けを借りなくても生きていけるのだ。そしてまさに今、中学を卒業し新たな舞台へ旅立とうとしている。
前の巻で祖父は、彼がいなくなることを心配するチノに「大丈夫じゃよ わしは天国に門前払いされたままじゃ」と言い安心させていたけど、天国へ行く時が近づいているように思う。
チノ達が旅行から帰ってきたら、ティッピーがいなくなっているとか、ただのうさぎに戻っているという展開になっても不思議はない。
おわりに
列車に乗り込み新しいセカイへ出発するチノ一行。
これが第7巻最後のコマ。最終回にしてもいいくらい綺麗な終わり方でした。ここで完結したとしても全く違和感はない。
ごちうさという作品自体は続いていくけど、少なくとも一つの章がクライマックスを迎えたのだということを感じさせられた。
「可愛かった」「癒やされた」だけで終わらない所が『ごちうさ』の魅力だと思う。なにかプラスアルファが、心に残るものがある。典型的な日常系萌え4コマとは一味違うのだ。
この巻ではシャロの両親に対する言及があった。これを皮切りに読者が長年抱いていた疑問の答えが次第に明かされていくことに期待している。リゼの母親や千夜の両親のことも気になる。
進学するチマメ隊とリゼには新たな出会いがあるだろう。これからの展開も楽しみだ。