『鉄血のオルフェンズ』1期の感想。前回はストーリーについて書いたので今回はキャラクターのことを書きますよ。
前回:コロニー編以外は面白い – 『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』1期感想 その1
『鉄血のオルフェンズ』1期を最終話まで視聴したが、敵味方問わず大半のキャラクターが魅力的に感じられた。ありきたりでつまらないキャラクターというのがほぼいない。脇役でさえキャラが立っている。そこがこのアニメの凄さだと思う。また、登場人物の内面や人物同士の関係性も丁寧に描かれている。
気になったキャラクターについてコメントしていく。(本題はオルガからです。)
カルタ・イシュー
地球外縁軌道統制統合艦隊司令官のおばさん。地球を目指す鉄華団の前に立ちふさがる敵。やたらとインパクトのある見た目と言動で異様にキャラ立ちしている。

©創通・サンライズ・MBS『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』 19話より引用
平安貴族みたいな眉と化粧は本人の趣味なのだろうか。名前を見ると日本とはつながりがないようだが…。
見た目は完全におばさんだけどガエリオやマクギリスの幼なじみ。年齢はどれくらいなんだろう。
初登場時はネタキャラのように見えたが違った。ギャラルホルン内では辛い立場に置かれており苦悩や葛藤が感じられる。そのことに付け込まれ陰謀によって命を落としたのは気の毒。
鉄華団サイドから見ればビスケットを殺害した憎い相手だったのだが…。
それにしても「地球外縁軌道統制統合艦隊」ってやたら長くて言いにくい。略称は無いのかな。早口言葉みたいだけど作中ではみんな噛まずに言えていて逆に違和感が…。
ガエリオ・ボードウィン
マクギリスの友人でいいとこのお坊ちゃん。当初はチャラくて軟派なイメージだったけど根は真面目なやつだった。部下のアインを大切にするし意外と責任感もある。ギャラルホルンの腐敗に不満を持っている。
1期終盤では敵側のガエリオが主人公みたいになっていた。鉄華団やマクギリスは倫理観が崩壊していて感情移入できないから、まともな感覚を持っている彼を応援したくなった。カルト鉄華団と腹黒マッキーを止めてくれと。
マクギリス・ファリド
有能なイケメン紳士。火星訪問時にチョコレートを渡したので三日月からチョコレートの人と呼ばれる。中盤から鉄華団を支援してくれるのだが実のところ超腹黒い人物。野望のため彼らを利用しようと考えている。
ギャラルホルンに内通者がいる、腐敗極まれりと憤るフリをするが実は自分が鉄華団に情報を流していたり、言葉巧みにガエリオを誘導し死にかけのアインを化け物にしてみたり(阿頼耶識システムの実験台)。
幼なじみのカルタを心にもない言葉でおだてて戦場に送り出し三日月に始末させたり(内心では前の戦闘でさっさと死んでいればよかったのにと思っている)。顔に似合わず悪いやつだなぁ…。
その一方仮面をかぶるとテンションが上がってしまう子供じみた一面も。
クーデリア・藍那・バーンスタイン
初登場時は世間知らずのお嬢様で可愛い。でもただ可愛いだけじゃなく鉄華団との価値観の違い、生きている世界の違いをあぶり出してくれる重要なキャラ。彼女の存在がオルガや三日月の置かれている過酷な状況を際立たせる。
クーデリアは阿頼耶識システムを非人道的だと言うが、三日月達は生き残るために使わざるを得ない。手術に失敗すると命を落としたり身体が動かなくなったりするが、教育を受けていない彼ら子どもたちが労働力・戦闘力として活躍するためには必要不可欠。
大きなリスクを取ることになるが生きるために選り好み出来ない立場なのだ。
読み書きできない鉄華団の子どもたちがクーデリアに字を教わるシーンは希望があって好き。戦うことが存在理由みたいな三日月も本を読めるようになって野菜のことを勉強したいと言う。教育があれば彼らにも平穏に暮らせる道があるんだなと。
だが、クーデリアは鉄華団と行動をともにするうちに目的のためには手段を選ばない非情な人になった。生き残るためには必要なことなのだろうけど感情移入できないね。
終盤の彼女は正義や倫理とは無縁の人間になってしまった。子供を捨て駒にして目的を達成することに少しも躊躇がない。一切のためらいなく命を奪える三日月のメンタリティに近づいた。
クーデリアは理想と現実の間で苦悩していた前半の方が魅力があった。終盤はあまりにも吹っ切れすぎ。
オルガ・イツカ
2期終盤の死亡シーンのせいでネタにされてるけど本当に魅力的なキャラ。本当にカッコいい。自分の身を犠牲にして仲間をかばえる強くて優しい男。序盤ではCGSの大人から仲間を守るためサンドバッグのように殴られていた。皆がついて行きたくなる頼りがいのある団長だ。
ただ、敵対者を三日月に殺害させるところが気になる。オルガ自身で人を撃つことがない。戦闘集団のトップだが本心では暴力が嫌いで人を傷つけることに抵抗があるのかもしれない。三日月に一目置いているのは躊躇なく命を奪える彼に自分に無いものを見たからなのかも。
優秀なリーダーに見えるオルガだが意外に危うい部分がある。6話でビスケットに「わざと危険な道ばかり進もうとして気がする」と心配されるが考えを改めることはなかった。
「三日月にカッコいい所を見せるため」という個人的かつ感情的な理由でリスクを冒して前に進むことにこだわる。進み続けると言う。
進むとは言っても彼には具体的な目的地が見えていない。「やると決めた以上は前に進むしかねぇ」という発言からも分かるように理性的な判断よりも感情や勢いが優先されていて危うい。1期の時点で既に破滅が運命づけられてたのかもしれない。
三日月との関係性が彼の判断に大きな影響を及ぼしている。最初は三日月がオルガに依存し自分の思考を放棄しているように見えたが、オルガのほうも三日月にべったり依存している。戦力としてだけではなく精神面でも三日月を支えにしている。彼に良い所を見せるために無茶をやって破滅するというのはなんとも愚かで哀しみがある。
オルガは一見すると頼りがいのある団長だが、実際にはまだまだ子供で未熟な部分を持っているのだ。鉄華団は二人だけじゃないのに個人的なこだわりで他の仲間達まで危険に晒すのはリーダーとして失格。
皮肉なのは危険な道へ連れて行かれる他の団員達もオルガのやり方に反対せず、思考停止して全面的に受け入れているところ。心配してアドバイスをするビスケットでさえ最終的にはオルガの判断を尊重し黙って付いて行く。いいのかそれで…。
カルト化した鉄華団
終盤ビスケットの死亡によってオルガに意見する者がいなくなった鉄華団はより過激で無軌道な集団になる。ビスケットの弔い合戦というのは言い訳でしかなく、「あの子らが望んでいるのはただの破壊よ」と蒔苗に言われる始末。
鉄華団は誰もオルガにノーを言わない狂信者の集まりになった。団員はオルガのためなら喜んで命を投げ出す。オルガは演説で団員の命をチップ呼ばわり。命を落としても組織の糧になるから喜んで殉職しろみたいなことを言う。
もうここまで来ると純粋な子どもたちを洗脳して死地へ追いやるカルトテロリストだ。完全に暗黒面に落ちてるよコレ。鉄華団が悪役になっちゃったよ。一切感情移入できなくなった。
三日月・オーガスはまるで悪魔
オルガや鉄華団がこうなってしまった元凶は三日月のような気がする…。ビスケット死亡後もオルガには良心が残っていた。危険な道を選んできた自分のやり方は正しかったのかと悩んでいた。
それなのに三日月が止まるなと煽るもんだからオルガをヤケにさせてしまったんだよな。「ああわかったよ!連れてってやるよ!(…)連れてきゃいいんだろ!」(第22話『まだ還れない』)って。あーあ、壊しちゃったよオルガを…。
三日月はホント無責任なやつなんだよ。煽るだけ煽って責任は全部オルガに背負わせて「次はどうすればいい」って…。ビスケットが復讐を望んでいないのはオルガにも分かっていたのに三日月のせいで止まれなくされてしまった。
オルガはある面で三日月の言いなり。三日月の目を常に気にしているから彼を失望させるような選択肢を選べない。三日月が思考や選択をオルガに丸投げしているように見えるが、オルガの方も三日月の機嫌を伺って方針を決めている。
オルガにコントロールされているようで実はオルガをコントロールしている三日月。これは共依存なのかな。倫理観が壊れていて暴力上等な三日月の期待に応えようとすればオルガは必然的に過激な道を選ぶことになってしまう。
タチが悪いのはオルガの決めた無茶な方針を正当化してしまえるほど三日月(とバルバトス)が強いこと。三日月が強すぎるせいで鉄華団員は身の丈に合わない成功を信じるようになり、結果として沢山の犠牲が出るという悲劇。
やっぱり三日月は悪魔だわ、かりそめの夢を見せる代償に団員の命を奪う。三日月は主人公じゃなくてもう悪のラスボス感がある。善悪の判断が壊れているから全く共感できず、ひたすらクールで強い所だけが魅力。
敵を人間扱いしない三日月
三日月は仲間には優しくできるのに敵を人間扱いせず虫ケラ同然に処分していく。そこが不気味で仕方ない。単純に感情が無いキャラクターのほうがまだ受け入れられる。
感情を持っているのに敵に対しては良心や共感を完全に停止させている。この割り切りが怖い。人として大切な部分が壊れているような気持ち悪さ。
三日月がオルガや鉄華団の仲間を大切に思っているように敵も人間であり大切な人がいる。そのことが眼中にない。どうしてそこまで非情になれるのか。尊敬するクランクを無残に殺され、やり切れないアインの言葉を「ふーん」のひとことで流す。
命のやり取りをする兵士としては正しいあり方なのかもしれないし、彼の境遇ではそうしないと生き残れなかったのだろうけど感情的に受け入れられない。彼のような人物を応援したいとは思えない。
ワガママかもしれないけど何かこう理想や正義のために戦ってくれたほうが応援したくなる。フィクションなんだから少しは綺麗事が欲しいわけですよ…。だから鉄華団より敵側のガエリオに感情移入してしまう。
極限状態を生きてきた鉄華団員とは対照的に、ガエリオは生まれながらの特権階級で世間知らずの坊っちゃんだ。厳しい環境で生きる人達を知らず、甘っちょろい理想に生きてる。でも逆にその甘っちょろい理想や正義感が美しく尊いものに見える。
鉄華団の価値観はあまりにも厳しく冷たい。はじめは自由を手に入れるために戦うというポジティブな部分もあったのだけど、だんだん先鋭化して破壊を求めるだけのちょっと理解できないところへ行ってしまった。
さんざん虐げられ苦しい思いをしてきた人達ならば何をしても許せるかと言うとそれは違う。
あとがき
鉄血のキャラ達は皆なかなか個性的で目を引くのだが、次第にどうしようもない奴らになっていくのが見ていて辛い。はじめは鉄華団を応援しながら見ていたもののだんだん同情できなくなった。終盤にカルト化した鉄華団を見て早く壊滅しろよと思ったくらい。
三日月やオルガに関してはあえて王道から外したキャラ作りをしたのだろうな。たしかに新鮮味はある。でもそれだと心に残る作品にはならないだろうなと。主人公サイドに全く感情移入できないのだから。
どのキャラクターの視点で物語を見れば良いのだろう。アインは元々真っ直ぐな人間だったようだが、恩人を失ったことで狂気に囚われ復讐と破壊の鬼になってしまった。やっぱりガエリオくらいしか理解できるキャラクターがいない。
『鉄血のオルフェンズ』(1期)は面白い作品ではあるのだが視聴後になんとも言えない虚無感を味わった。後味が悪い。一応、強力な怪物と化したアインを倒し、クーデリアの目的も達成され、めでたしめでたしという体にはなっているけれどもスッキリしない。
アインだけでなく三日月や鉄華団、マクギリス、クーデリアを含め皆くたばったほうが世の中のためでは無いのかと。全員悪人というわけではないけど常軌を逸した価値観で生きている人ばかりだ。誰を応援すれば良いのやら分からないアニメだった。