良かった点、気になった点―『水星の魔女』第1クール感想Part2

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TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第1クール(1~12話)の感想、パート2です。今回はネタバレありで、より具体的に良かった点、気になった点を書きます。

最終話の内容にも言及するので未視聴の方はご注意ください。また、批判的な内容も含まれるので、そういうのが嫌な方は別の記事を読むかブラウザバックしてください。

前回:ガンダム『水星の魔女』第1クールの全体的な感想

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良かった点

まずは良かった点から。後で批判的なことも書きますが、結構楽しんで見られた作品でしたよ。気に入らない部分もあるけど、全体的に見れば嫌いではないです。

では良かった点を具体的に見ていきましょう。

人間ドラマがある

スレッタ、ミオリネの二人が中心の物語かと思いきや、意外にも群像劇的な内容でした。初登場時には噛ませ犬にしか見えなかったグエルは、だんだんいいキャラになっていき、気づけば主人公のような存在になっていました。

エラン(4号)やシャディク、ニカにもそれぞれドラマがあって良かった。

親から強い圧力を受けていたり、恵まれない出自のため苦労が多かったり、それぞれがハードな状況に置かれていますが、挫けず前に進もうとする様子はなんか見ていて泣ける。

各キャラについて語ると長くなるので、別の記事に書く予定です。

男女キャラのバランスが良い

百合を前面に押し出した、女の子ばかりが活躍する作品になるかと思っていましたが、前述のように魅力的な男性キャラもしっかり出ました。

かといって、従来の男性キャラ中心のガンダムとも違いバランスがいい。今の時代らしい作品だと思います。

考察が楽しめる構成

これもSNS全盛の現代ならでは。謎解きや考察が面白いタイプの作品になっています。

主人公スレッタの正体や彼女の母親の目的など、重要な情報がはっきりとは明かされません。情報を小出しにしていき、視聴者に予想、考察させるような作りになっています。

本編だけではなく、ファンの作った考察動画や考察サイトを見るのも楽しい。

映像のクオリティが高い

手描きのモビルスーツ戦は見ごたえがあるし、日常シーンにおけるキャラの動きも見ていて楽しかった。

何度も放送延期があったり、エンドロールの原画にとんでもない人数が並んでいたりとスケジュールがヤバそうな雰囲気でしたが、それを気づかせないくらい安定したクオリティを保っていました。

第11話のトイレから追いかけっこをするシーンは、絵柄が普段と違っていて印象的。どなたか有名アニメーターが描いてるのかな? なんだか面白い動きでした。

曲がいい

OP、EDともにいい曲だと思います。OP曲は歌詞が考察要素になってますし、ED曲が流れるとすごくいいもの見たという気分になります。本編の面白さを増幅してくれる感じ。

魅力的なキャラデザ

パッと見ただけで見分けがつく印象的なキャラクターデザインが良かった。

舞台が学園なのでメインキャラは基本的に制服姿なのですが、同じ制服を着ていても着崩したりアレンジした着方をしています。

髪型や髪の色以外でも特徴をつけるべく工夫されていることが分かる。よく見ると靴のデザインもそれぞれ違うんですよね。細かいとこまでデザインされてますよ。

あと、主人公のスレッタとミオリネに結構身長差がある所が面白い。スレッタが一回り大きいです。

ミオリネは強気で声が大きいので背も高そうな印象を受けますが、実は弱気なスレッタのほうが大きいという…。なんかいいですね。

なおミオリネが極端に小柄というわけでもなく、身長で言えばチュチュのほうが小さいらしい。お団子がでかいだけで本体はミオリネより小さいというね。

恐怖する描写がリアル

平和な学園生活から一転。最終話(第12話)でスレッタたちはテロに巻き込まれ、決闘ではない本当の殺し合いを目の当たりにします。

この回のキャラの怯え方がリアルで良かった。平和に暮らしていた若者が、いきなり戦闘に巻き込まれたらこうなるだろうなという納得感がありました。

リリッケが過呼吸になってるシーンは迫真でしたし、こんなところで死ねないと涙を流しながらも歯を食いしばって戦うグエルにグッと来た。

恐怖する表現が本当にいいんですよね。銃を突きつけられたミオリネの反応も生々しくて良かった。気の強いミオリネが死を覚悟し、恐怖で目をギュッと閉じる描写がたまらんかったですよ。

リアリティ面で良かったのと同時に、なんかエロかったです。リョナ好きとか一部の特殊性癖の人は分かってくれるはず。

あと、地球のメスガキの青い方(ノレア)が、強化されたエアリアルのビーム砲を見て身震いする描写もよかった。戦いに慣れてる人でも恐怖するほど、とんでもない兵器なんですね。

健全なサービスシーン(?)

シャディクガールズのロッカールームシーン(第9話)はなんかドキっとしました。肌の露出は一切ないのに、何故か淫靡な雰囲気でした。いけないものを見てしまったような感覚。

あとはミオリネの脚。温室内で寝転んでるところ(第8話)とか、爆風に巻き込まれ吹っ飛んだところ(12話)とか。

気になった点

ここから批判的な内容になるのでご注意を。

物語の本筋が見えづらい

全話を通した軸みたいなものが見えてきません。物語の目標というか終着点が現時点では不明です。

1回目の視聴時、第7話以降に失速感があったのはそれが原因かもしれません。どこを目指しているのか分からないと話に入り込むのが難しい。

例えば会社設立の件ですが、初見では後の展開にどうつながるのか見えなかったのでイマイチ退屈な感じでした。一度オチを知ってから見返せば面白いんですけど。

あと、本筋がはっきりしないため、12話までの内容を一言で説明しづらいんですよ……。

見ている最中は気にならないけど、後で振り返ると「結局何の話だったんだ?」となります。11話掛けて積み上げたものを、最終話でぶっ潰して終わったからね。

ただ、各話の引きが強いので次が見たくはなる。そういう構成は上手い。

物語そのものの面白さより、個性の強いキャラやキャッチーなセリフ、ショッキングな描写や考察要素によって視聴者の興味を維持している印象でした。

12話かけても回収されない謎が多い

これはまあ第2クールの内容次第なので、現時点で批判すべきではないかもしれないですけど、一つくらいタネ明かしをしてくれても良かったのでは?

なんか謎が多すぎて第2クールが始まる頃には半分くらい忘れてそう。

情報量が多い&駆け足展開

全体的な感想にも書きましたが、情報量が多く1回見ただけではよく分からない。本作独自の用語なども十分説明されないまま、駆け足で話が進んでいきます。本編を1回見ただけでキャラクターや組織の関係性、世界観を理解するのは至難の業。

本作はこれまでのガンダム作品のような4クール構成ではなく、2クール構成です。尺が短いため、駆け足に仕方ないのかもしれませんが。(人気次第では全4クールになるか?)

あるいは、ネットの解説動画などでフォローしてくれることを前提にした作りなのかもしれません。あえて説明しないことでネット上の議論が盛り上がれば、宣伝になるからいいのかな?

キャラ被り&性格がキツい人ばかり

性悪、高飛車、イキリ系のキャラが多すぎませんか? やたら気が強くて口が悪いやつばかり。どうしてここまで大量に同じタイプのキャラを出すんでしょうかね? スタッフの性癖なのか??

しかも見た目がそっくりなやつまでいるし…。フェルシー(グエルの取り巻きの子)とレネ(シャディクガールズの一人)って、最初同一人物かと思いましたよ。グエルが追放されたから推しを変えたのかと。

この二人は顔がそっくりで、髪の色もほぼ同じかつ癖っ毛。生き別れの姉妹なんでしょうか?

さらに終盤で地球の魔女が登場した際には、「まーたこのタイプが増えるのかよ!」とズッコケそうになりました。しかもこいつらは背丈がちっこく、まさに近年ブームになっている「メスガキ」でしたからねえ!

本作のスタッフは流行りをよく研究してますね、ほんと。

エアリアル無双

スレッタの乗るガンダムエアリアルは強すぎて負ける姿が想像できません。その結果、戦闘シーンの緊張感が薄れていると思います。

確かに初代のガンダムも強かったですが、初代の場合、一方的に無双していたのはあくまで終盤だけ。それまでは結構苦戦もしていました。

一方今回のエアリアルは、初戦からファンネル(ガンビット)で相手をバラバラにして勝利ですからねえ……。圧倒的すぎる。

ガンビットは攻守両方に使用できて隙がないですし、対ガンダム用の兵器を上書きして無効にする機能が搭載されていたりと何でもあり。どうやったら倒せるのよ……。

これもスタッフが最近の流行を研究した結果なのでしょうか? 近年、主人公が苦戦する展開を嫌う層が増えたと言われています。なろう系などの主人公最強アニメは相変わらず大人気ですし、ストレスフリーで安心して見られる作品が求められているのは事実でしょう。

これまでのガンダムファンではない新たな層を取り込もうとしたスタッフが、そういう層に配慮した可能性は十分に考えられる。

ただ、主人公機を強くしすぎると戦闘が盛り上がらなくなる以外にも、弊害があると思うんですよね。

例えばスレッタのパイロットとしての実力がよく分からなくなります。機体の性能差で勝っているようにしか見えないため、同じ機体でやりあったらグエルや地球の魔女たちのほうが強いんじゃないかと感じてしまう。

決闘前のセリフに「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず」というのがありますが、「結局エアリアルの性能頼みなのでは?」という疑問が常に頭をよぎります。もしチートアイテムに頼っているだけの主人公だったとしたら、純粋に応援しづらくなってしまう。

あと、第12話におけるエアリアルの強化は必要だったのでしょうか。元から最強だったのに、さらに強くしてどうするのと……。いつものガンダム顔になってしまったし、筆者もメスガキの意見に同意ですよ。前のほうが好きだったな。

ストーリー的にも、巨大ビーム砲なしでメスガキ達を追い返せたでしょ。すぐそこまでドミニコスが来てたわけだし。

まあ、エアリアルの強化は、プロスペラとデリングの謎計画のための準備という設定なんでしょうけどね。メタ的には、おもちゃを売るための強化という意味合いもありそう。

ノイズが少なく計算され尽くしたシナリオ

これは見方によっては「良かった点」なのですが、個人的にちょっと引っかかる部分があったので書かせてもらいます。

実際、1話単位で見ていくと非常に完成度の高い脚本であると感じます。どうやったら現代の視聴者に受けるのか考え抜かれており、無駄なシーンがほぼないです。

ただその分、作家個人の情念やこだわりみたいなものが入り込む余地がなくなっている気がします。全部理屈と計算で作られてる感じで、ぬくもりに欠けるというか……。

個人的には芸術とか文学ではないエンタメ作品であっても、多少歪な部分があったほうが深みが生まれると思うんですよ。

本作のキャラは確かに個性的なのですが、うがった見方をすると緻密に計算されて動かされているコマのようにも見えてしまう。「こういう役割で動かそう」「こんなふうに見られてほしい」というスタッフの意図だけで動いていて、作品世界の中で本当に生きている人間という感じが少々薄いような……。

また、ノイズを可能な限り排除し、物語上必要な情報しか出していないように感じました。あるキャラの好物や抱えている思い、バックグラウンドを描くのは物語上必要になった時だけ。

例えば第4話でチュチュの故郷の話を出したのは、スレッタも自分と同じような境遇であることを知り打ち解けるという展開を見せるためでしょうね。

言い換えれば、物語上の必要性がない場合はキャラの掘り下げを行わないのが本作のスタイル。実際、4話以外ではチュチュのバックグラウンドは語られませんし、物語上の重要性が低いからか、他の地球寮メンバーの出身地や家族の話はほとんど語られていません。

まあ、元々情報量が多い作品なので、出す情報を取捨選択するのは分からんでもない。ノイズまで入れてしまうと視聴者の頭がパンクするかもしれない。尺も短いですしね。

ただ、個人的には、そういうある意味本筋と関係のない情報こそ大事だと思います。 一見無駄な情報が世界の広がりを感じさせ、キャラに深みを与える。それは、学園モノや日常系作品に限ったことではありません。

言うほど百合じゃない

本作を百合ガンダムと言う人もいますが、スレッタもミオリネもお互いに恋愛感情はないですよね。婚約者というのもあくまで形式的なものですし。

スレッタが恋心を抱いているのはエランに対してであって、ミオリネに対してそういった感情は持っていない気が。友達以上恋人未満という雰囲気さえありません。よくて親友?

第5話には、エランとのデートに向かうスレッタにミオリネがキレている描写がありましたが、あれは嫉妬ではなく、御三家への警戒なのでは? 無垢なスレッタが丸め込まれて敵側に回るのを恐れているのだと解釈しました。第10話では、デートOKと言ってますし。

百合の定義は人それぞれだと思いますが、個人的にこれは百合認定できません。二人の関係性は好きですけど、現時点では女の子同士の友情でしかない。友情の一歩先まで行ってこそ百合だと思います。

誰がどの機体に乗っているのか分かりづらい

1対1なら分かりますが、複数のモビルスーツが入り乱れる戦闘では誰がどれで戦っているのか分かりづらかった。

第12話が特にそうでしたし、9話の集団戦とか、5話冒頭エランの決闘も初見ではちょっと迷いました。

脇役のモビルスーツはデザインが割と地味で色も落ち着いた感じなので、見分けがつきにくいというのもあります。

まあ、二大勢力が戦争をする話じゃないから仕方ない面はありますね。初代は連邦とジオンでデザインの方向性が違ったので分かりやすかった。

最終話(第12話)の強引な展開

11話までのシナリオは完成度が高く、突っ込みどころは少なかったと思うのですが、最終話は結構酷かった。これまでとは打って変わって、かなり強引な展開だったので驚きました。

見せたいシーンが先にあって、そこへ持っていくため無理やりキャラを動かしている感じで冷めます。正直言って雑。

グエルの父ヴィムが唐突にモビルスーツで出撃。グエルもテロリストの目を盗んで出撃。二人は運悪く鉢合わせ。グエル機をテロリストだと誤認して襲いかかったヴィムは反撃されて死亡。意図せず父殺しをしてしまったグエルは絶叫……。

この流れはもはやギャグにしか見えません。そもそもヴィムってモビルスーツのパイロットだったのか?? まったく伏線を張っていなかったので取ってつけた感が凄い。この展開をやりたいのなら、もっと前から匂わせておくべきでした。

突然セリフで「ライバルの頭を直接ぶっ叩くことで勝ち上がってきた」とか言われても納得できませんよ。この人は経営者としての描写しかなく、パイロットだったことが分かる要素は一切なかった。

あと、散々小者ムーブをかましてきたとはいえ、手元の少数のモビルスーツでテロリストに喧嘩を売るような思慮の浅い人物でしたっけ?

シャディクの裏切りにキレたのは分かるけど、彼は遠くで高みの見物ですし、ここで出撃しても意味がないでしょう。

というか、これまでのイメージだと、ヴィムは部下に戦わせ自分だけコソコソ逃げても違和感のないキャラだったのですが。

すべてが不自然。グエルに殺されるため、謎の力によって操られているようにしか見えませんでしたよ。

ラストの下品な演出とセリフ

全体的な感想の繰り返しになりますが、最終話ラストシーンの演出は下品すぎる。エアリアルがテロリストを叩き潰す展開そのものは、まあアリだと思います。

スレッタがプロスペラから何らかの洗脳を受けていることが明白になりましたし。

しかし、あの見せ方はいかんでしょ。

血が多すぎて不自然だし、潰す所を別アングルで2回も見せるなよと……。べちゃぁという効果音もわざとらしい。なんか必要以上にグロくしてバズらせたいという意図が見え見えで萎えます。

トマトと対応させているのは分かりますよ。トマトはミオリネの触れられたくない心の象徴のように描かれてきました。このラストシーンは、今までミオリネが築いてきたスレッタとの関係の崩壊を示唆しているのでしょう。

でもそれをテロリストの砕け散った体で表現するのは、はっきり言って悪趣味だと思いますよ。

ミオリネの「人殺し」というセリフも変。

蚊を潰すような感覚でテロリストを惨殺し、へらへら笑っているスレッタにドン引きしたのは分かります。でも、そのスレッタの行動がなければミオリネがあの世に行っていました。

自分と父親を殺す気満々のテロリストに銃を突きつけられ、死を覚悟していた所を助けられたのだから、まずは安堵と感謝の気持ちが来るでしょ。

これまでクールで合理的な思考をしてきたミオリネが「人殺し」と言うのは流石に不自然。会社の回ではガンダムの兵器利用も辞さない構えだったのにね。

兵器とはどういうものか実感として分かっていない甘ちゃんだったと解釈することもできますが、この状況ならまず助かってよかったと思うだろうし、恩人を責めるような言葉は出ないのでは?

直前のセリフ「なんで笑ってるの」で止めておいてほしかった。呆然自失して言葉が出ないとかでもいい。

ミオリネはスレッタがテロリストを殺したことより、その後の態度に不気味さを感じているわけなので、「人殺し」という言葉のチョイスにはちょっと納得できません。

血まみれの手を差し出すスレッタに恐怖して「こっちにこないで」と言うのならまだ分かるけど……。

おわりに

現時点で3回通して見ました。なんだかんだ言いつつ楽しんでいます。あのラストから続く第2クールはどんな展開になるのか。4月が待ち遠しい。

次回は各キャラについてコメントしていこうと思います。

次:各キャラについてコメント – 『水星の魔女』第1クール感想Part3

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